重苦しい雰囲気の中、紅茶の香りが漂ってきた。
わたくしの好きな茶葉の香りだわ。ヨハンは覚えてくれていたのね。鼻腔を擽る大好きな香りに一時心が癒された。準備が整うとヨハンは部屋の奥に退いた。
渋い顔をしたお父様はなかなか口を開こうとはしない。
わたくしは不安な気持ちを振り払うように紅茶に口をつけた。
両親にはストレートだったけれど、わたくしにはミルクティーを淹れてくれていた。
ほんのりと蜂蜜の甘い香りがする。蜂蜜も産地にこだわったわたくしのお気に入りのもの。
程よい甘さが心を和らげてくれる。二口、三口と飲んで、ミルクティーを堪能してカップをソーサーに置くと両親がわたくしを見つめていた。
愛おしそうな眼差しの中に痛ましさを滲ませた複雑な色で。
「ビビアン。そなたに聞きたいことがある」
お父様がおもむろに口を開いた。
「お父様。エマはどこにいるのですか?」
もしかしたら、隣室にいて後で驚かせようと思っているのかもしれないと考えたけれど。
帰ってきていると信じて疑わないわたくし。



