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「フローラ。大丈夫だったかい?」
お父様の気づかわし気な声に私は頷きました。
寝室に設えられたテーブルに着いて話をすることになりました。
部屋着の上にガウンを羽織り、椅子まで運んでくれたのはレイ様でした。まともに歩けない状態では仕方ないとは思いましたが、お姫様抱っこされる自分を両親に生暖かく見られるのは想像以上に恥ずかしかった。
レイ様は家族だけがいいだろうと席を外して下さっています。
「誘拐はされかけましたが、幸いなことに警備隊やレイ様の護衛騎士のおかげで助かりました」
私は数時間前に自分の身に起きたことを話しました。無事だったからこそ、両親に話ができるのだと今回の幸運を噛みしめながら。
「怖い思いをしたのね。本当に無事でよかったわ」
表情をこわばらせながら聞いていたお母様が私を抱きしめてくれました。
「誘拐って文字を見た時には寿命が縮んだわ。無事だと知ってどれほど喜んだことか」
お母様の目に涙が滲んでいました。そして、お父様も涙を浮かべているよう。



