で、目の前の停車場からわざと引き返して、人目を避けて、本格的に降り出した雨の中を傘もささずに歩き回ったわ。

 そういえば、フローラさんを見かけたような気がする。
 ずぶ濡れだったけど、彼女も風邪をひきたかったのかしらね。
 声をかけようかと思ったけど、彼女の所まで歩いていくのが億劫だったし、あたしに気付かなかったみたいだから、そのまま通り過ぎたけど。

 雨に濡れたくらいで簡単には風邪ってひかないもんよね。
 あたしみたいに。

 そうなんだよ。
 人間って丈夫にできてんのね。

 制服から雨が滴り落ちるくらい濡れてびしょびしょだったから、普通は風邪をひくと思うよね。お義父様もメイド達も心配してあれやこれやと世話してくれたから、明日は100%風邪ひいてるって期待するじゃない? 
 熱かな、咳かな、それとも両方? なんて、想像しながら、みんなにかいがいしく看病されるイメージトレーニングまでやって、ワクワクしながら寝たのに、なぜかスッキリ爽やかに目が覚めたわ。

 症状がないか確かめてみても、どこも悪くなってない。むしろ、いつもより調子いいんじゃないのっていうくらい、ピンピンしてた。

 どういうこと? 

 雨が染みこんだ制服の気持ちの悪さに耐えて、殴られるような雨の痛さに耐えて、ずぶ濡れになったのに、あの努力と頑張りを返してほしい。