婚約破棄から始まる恋2~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています


「君は……シュミット公爵令嬢だね。どうしてここに?」

 レイ様はビビアン様に問いました。

 ファーストダンスを踊った相手ですから記憶に新しかったのでしょう。
 私を睨みつけた鬼のような形相はほんのわずかの時間だったのかもしれません。

 レイ様に名前を呼ばれた彼女の表情がとろけるような甘やかな表情へと瞬時に変わりました。
 
「申し訳ございません。少し道に迷ったようで、気づいたらここへ。申し訳ございません」

 しおらしく謝るビビアン様の様子に先ほどの瞋恚の目つきなどどこにもありません。気のせいかもと思ってしまうくらいに見事な変身ぶりです。

 私はまだあの表情が頭に焼きついていて、恐怖が先に立ち、ぎゅっとレイ様の服を握りしめました。