「婚約破棄って、男性より女性の方が被害が大きいですものね。傷物だと揶揄されて、格下の貴族に嫁ぐことになったりとか、年の離れた格下の貴族の後妻に入るとか、もしくは貰い手がなくて最後は修道院に、なんてことも聞きますものね。もちろん、フローラ様がそうだとは言いませんわよ。ですから、お怒りにならないで」
扇子から覗く目は笑ってなくて、悪意をちらつかせた瞳にゾッとしました。
「わたしの親友フローラの結婚のことまで、心配してくださってありがとうございます」
悪意を断ち切るように割って入ったのは、鈴の音を転がしたような涼やかなディアナの声。
助かったわ。おかげで呑まれそうになっていた毒気が掻き消されてしまいました。
「お友達の縁談を心配するのは当然ですわ」
ホホホッ。
扇子越しに朗らかな笑い声が響いてきます。あのどす黒さはどこへ行ってしまったのでしょうか。変わり身の早さに驚きを通り越して感心してしまいました。



