君しかいない

「どういう意味……ですか」
「今更カマトトぶらなくてもいいって。お嬢様だろうが男の一人や二人、経験あるだろ?」

 首に翔斗さんの唇が触れべロリと舐めあげられた。ザラザラした舌触りと濡れていく首筋が、異様に気持ち悪くて鳥肌が立つ。
 唇を重ねられヌルリと舌が口内に入り込む。強引に舌を捕らえた翔斗さんの舌が執拗に絡められる。
 成瀬にキスした時と違い気持ち悪くてゾワゾワするし、もっとしたいなんて全然思えない。

「やっ」

 身体を離し逃げようとするも、腰には腕が回されガッチリ捕まえられている。
 顔だけでも距離を取りたい、意思に反してこんな簡単に奪われたくない。

「ジタバタするなよ、どうせ結婚したら俺のものになるなんだから」
「やだ、離してよっ……成瀬!」

 シャツに翔斗さんの手がかかり左右に引きちぎられ、床にボタンが散らばった。
 はだけた胸元に顔を埋められた時、成瀬の顔が思い浮かび出せる力の限りで翔斗さんの顔と身体を押し返す。
 シャツをギュッと胸元で握り、強い視線を翔斗さんへ向ける。
 髪をかきあげながら、翔斗さんはわたしを見下すように言った。

「ひとりじゃ何にも出来ないお嬢様、何処までも執事頼りとか笑わせるよな。結婚したらあの執事は辞めさせる」
「勝手なこと言わないで。成瀬はわたしの……」

 言いかけて口を噤む。成瀬は東堂家が雇っている使用人でわたしの執事だ。分かっている、頭では理解しているけれど。
 ハッキリと自覚した。わたしは成瀬のことを執事以上に想っていたけれど、とっくに好きを通り越して愛しているのだと。

「……帰る」
「待てって」

 バッグを手に取り引き止める翔斗さんを振り切って、出口へ向かい店内を走る。人を避けながら外の世界へ続くドアを開けた。