「落ち着かない?」

「え、あ、うん⋯少しだけね⋯」

私の謎の緊張は少しなんてもんじゃないが、普通を装うことに専念することにした。

「蛍と初めて出会ったのも、ここだよね」

「あの⋯出会った頃の話はやめて欲しいんですけど⋯」

「どうして? たまには思い出話もいいじゃん」

「私にとっては黒歴史なので、遠慮します⋯」

「黒歴史なんてことないよ、あの夜の蛍は本当に情熱的で美しかった」

遠くを見つめ思い出に浸る智明を横目に、運ばれてきたスクリュードライバーを一気に飲み干す。

「蛍、そんなにハイペースだと早く酔い回っちゃうよ」

「私はお酒強いから平気なの!」

「げ、既にべろんべろんじゃん⋯まだ始まったばっかなのに、どうしよう⋯」

智明が何か言っているが、半分くらい頭に入ってこないで、右から左へと通り抜けていく。

黒歴史を思い出さなくて済むように、カクテルを何杯か追加注文してハイペースで空ける。

「蛍、その辺にして。飲みすぎだよ」

「大丈夫なの! ほら、智明ももっと飲んで!」

「また記憶飛ばすことになるから、この辺にしておきな。ほら、家に帰るよ」

「まだ足りない!」

私がそう言うと智明は少し困ったような顔をしたが、それもだんだんぼやけていってそのまま眠ってしまった。