私の家も、高峰さんと同じく製薬会社を経営している。

といっても本当に小さな製薬会社だし、大手企業の高峰さんからしたら蟻みたいなものだろう。

「蛍、お前からも何かないのかい?」

「この話はなかったことにしてください」

「ごめんね、蛍さん。それはできないんだ」

「私今日初めてこの話聞いたんですよ? いきなり婚約者だって言われて受け入れられるわけないじゃないですか」

私がそう言うと、お父さんは黙ってしまった。

いずれこんな日が来ることは何となく予想してたけど、あらかじめ説明は欲しかった。

朝起きたら訳の分からないまま正装をさせられて婚約者に会わされるなんて、意味がわからない。

「蛍さん、もし良ければ簡単な自己紹介をしないかい? そうすれば、緊張も解けるよ」

「自己紹介⋯ですか?」

「そう、僕のことを知ってもらうためにもね。僕からでいいかな?」

「自己紹介だけなら、まぁ⋯」

自己紹介を聞いたところでこの人と結婚する気は微塵もないのだが、他の話題を振られるよりはマシな気がする。

高峰さんの自己紹介に適当に相槌を打って、これまた適当に私のことを紹介して終わりにしよう。