屋上庭園からの帰り道。
 初めて、桃花と手を繋ぐ。白くて小さなその手は、少しひんやりとしている。

 まるで、もうずっと以前からこの手を繋いでいたかのような錯覚に陥る。パズルのピースがぴたりとはまった時のように、桃花の手は自分の手に一瞬にして馴染んだ。
 
「なんか、すごく不思議です。こうして小鳥遊さんと手を繋いで歩くの」

 桃花は、少し恥ずかしそうにはにかみながら言う。その笑顔が可愛いすぎる。

(わたる)

「えっ?」

「航って、呼んでもらえませんか? これから」
 
 夕焼け空はすっかり暗くなり、いつのまにか頭上には月が出ている。二十四時間前には予想もできなかった世界が、今目の前に広がっている。

「わ、航……さん」

 耐え切れずに加えられた「さん」が、可愛らしい。思わず、クスッと笑ってしまった。

「——可愛い」

「も、もうっ。からかわないでくださいっ」

「からかってなんかいません。本心です。あなたがあんまり可愛いから——いつも心配だったんですよ? 誰かに取られるんじゃないか……って」

「……馬場君とか、ですか?」

「はい。てっきり、もう馬場と付き合っているのかと」

 昨日の、息の合った若い二人を見た時、覚悟を決めたんだ。

「私だって、昨日のあの綺麗な方は恋人なのかと思ってました」

「え? 昨日の……?」

 記憶を巻き戻し、昨夜突然現れた玲香のことだとわかった。とんだ誤解だ。だって彼女は……。

「彼女……玲香は、専門学校時代のクラスメイトで、ヘルメースの元同期なんです。まあ、彼女はすぐに別の業種に転職したので、同期と呼べるのか怪しいですが」

「あ……。なんだ、そうだったんですね」

 桃花は、ほっとしたような顔を見せた。

「ちなみに、馬場玲香は馬場裕也の姉弟(きょうだい)でもあります」
 

「——ええっ⁈」