「馬場君、ありがとう。そんなふうに言ってもらえて、すごく嬉しい。本当だよ。私がいるから頑張れる、って、最高に嬉しいよ」

「うん」

「私もね、馬場君のお陰で店にもホテルにも馴染めて、すごく感謝してる。馬場君といるといつも楽しくて、嫌なことがあっても忘れられる」

「うん」

「——でも。でもね、私……好きな人がいるの。もうずっと前から。全然仲良くもないし、そんなに話したこともない。どんな人かも、あんまり知らない。だけどね、私は、私が知ってるその人の全てが、とても好きなの。厳しくて、でも優しい顔もあって。私のことなんて見てないってわかってるけど……それでも好きなの」
 
 ずっと。初めて会ったあの入社式の日から。秘密を共有したあの日から。忘れられなかった。自分でも、どうかしていると思う。
 
「……そっか、わかった。話してくれてありがとう」

 馬場君はいつもと同じ笑顔だ。

「ミツバチちゃんの気持ち聞けて、すっきりした。でもさ、今のとこ俺の方がそいつよりミツバチちゃんと仲良いってことだよな?」

「え? う、うん。そうだね」

「じゃあ、一歩リードってことで。俺、諦めたわけじゃないからな。もっとミツバチちゃんと仲良くなって、二歩も三歩もリードするから。それでいつか、ミツバチちゃんに俺の方が好きだって思わせてみせる」
 
 気まずい空気にならないようにか、馬場君は明るく笑ってみせた。
 
「ふふっ。ありがとう、馬場君」

 思わず、私も笑顔になってしまう。
 
 この人を好きになれたら、どんなに良いだろう?