「しっかしスゲーな、その花。スト……なんだっけ?」

 ハンドルを握りながら馬場君が言う。ストレリチアは後部座席に横たわっている。
 
「ストレリチア。極楽鳥花ともいうの。鳥みたいに見えるでしょ?」

「ああ、なるほど。確かに。面白いな、花って」

 馬場君の嘘の無い言葉は、とても安心する。

「ねえ、馬場君もしかしてコロン着けてる?」

 さっきの薔薇の香りが気になった。

「えっ⁉︎ あ、ごめん……やっぱりわかる?」

「なんとなくだけど」

 馬場君は顔を赤くする。

「いや、実はさ。今日デートするって言ったら、姉貴に無理矢理振りかけられて……。頑張って落としたつもりだったんだけど」

 最悪だ、と言いながら恥ずかしそうにしている馬場君を見て、ちょっとドキッとしてしまう。

「お、お姉さんいるんだ?」

「結構歳離れてんだけどね。ああ、確か小鳥遊支配人と同じくらいだったかな」

「そうなんだ」

「なんか、姉貴の方が張り切っててさ。俺が珍しく本気になってるからって。その……ミツバチちゃんに」


 何と返していいのかわからなくなる。

「あのさ、ミツバチちゃん」

「……はい」

 運転中だから馬場君はずっと正面を向いたままだ。私も、隣にいる彼の顔が見れない。

「俺、こんなだからさ? チャラい奴だって思われてるかもしれないけど……真剣なんだ。いつも俺の話、笑顔で聞いてくれて。嬉しかった。ミツバチちゃんがいるだけで、どんなに仕事で大変な時も、頑張ろうって思えるんだ、俺」

「……うん」

「好きなんだ。ずっと一緒にいたい。だから、付き合ってほしい」

 もう、さっきみたいに電話は鳴らない。

 私は、息を吸う。
 真剣に思いを伝えてくれたから、私も真剣に——正直に——答えなくちゃ。