慌ただしく水族館を後にし、馬場君の運転する車で桐谷生花本店へ到着したのは午後一時四十分。思っていたより早く来れたのは、馬場君が急いでくれたお陰だ。(もちろん安全運転だけど)
 
 中まではさすがに一人で行くと言ったけど、結局馬場君も一緒に来てくれた。
 
「お疲れさまです。ヘルメース店の三橋です」

「ああ、三橋さん。お疲れさま。伊藤店長から聞いてるよ。大変だったね」

 本店店長は作業をしながらそう声をかけてくれた。

「いえ、こちらこそ申し訳ありません。突然お願いしてしまって」

「大丈夫大丈夫。良かったよ、丁度ストレリチアがあって。はい、これ。ちょっと多目に用意しておいたから」

 そう言うと、作業場の棚からストレリチアを手渡してくれた。

 極楽鳥が飛び立とうとしているような、眩しくて生き生きとしたその花は、見ているだけで力がわいてくる。

「ありがとうございます」

 受け取ろうとしたところで、馬場君が間に割って入った。

「お世話になっております。ヘルメース・トーキョー、ベルの馬場と申します。この度は弊社がご迷惑をおかけして、誠に申し訳ございませんでした。支配人に代わってお詫び申し上げます」

 意外にも、ちゃんとした言葉使いと態度だ。普段のチャラッとした印象とはだいぶ違う。馬場君が深々と頭を下げると、微かに薔薇のような香りがした。

 本店店長は馬場君の登場に驚いたようで、わたわたとストレリチアを近くの台に置くと、馬場君に向かって頭を下げる。
 
「いやいや、そんな。困った時はお互い様ですから。ねっ。頭上げてください」

 そう言ってポンポンと馬場君の肩に手を置いた。