電話を終えた後、フロントカウンターの裏に下がってリザベーションの事務所へ向かった。

 ここ数年で宿泊の予約はそのほとんどがインターネット予約になっているものの、片桐様のような常連のゲストや年配のゲストは、またまだ電話予約を好まれる方も多い。
 
「すみません、ここ最近で片桐千佳子(かたぎりちかこ)様のご予約があったか、調べていただきたいのですが。先程ご本人様から予約確認のお電話があったのですが、予約が見当たらなくて」
 
「えっ。少々お待ちください、お調べします」

 事務所で俺を対応したのは、馬場と同世代の女性スタッフだった。確かアイツと同期だったか。支配人は不在にしているようだ。

 電話予約を受注した際には、受書に記録を残すことになっている。リザベーションスタッフに受書を確認してもらうと、そこには三週間程前に予約の電話があったという記録が残っていた。
 
「これ。予約入力をしたかきちんと確認しないんですか? 基本でしょう?」

 受書を指差し、彼女に見せる。
 目の前にいるスタッフは予約を受けた張本人ではない。そんなことはわかっている。でも、個人ではなくこれは(グループ)としての責任だ。
 
「いえ、通常は確認をするはずですけど」

「つまり、今回はできていなかった、ということですか。今後、徹底するようにしてください。頼みます」

 俺に言われ、そのスタッフは納得のいかないような顔を見せた。
 
「あの。そもそもミスったの私じゃないんですけど。文句なら本人に言ってくれません? それに、片桐様って小鳥遊支配人のお客様でしょう? ミスされたくないなら、今後は支配人が直接予約受けたらどうです? 私たち、電話もネット予約も多くて、正直面倒な手配のある予約は受けたくないんですよ」
 
 開いた口が塞がらなかった。
 俺は何も、文句を言いにわざわざ足を運んだ訳ではない。事実確認と、今後の対応をお願いしただけだ。今は、こういうスタッフがいるのか? 俺が知らないだけで、こういう考えの子が多いのだろうか?

 リザベーションの支配人には後で報告するが、これ以上彼女とは話ができないと思った。
 
「……わかりました。片桐様に関しては、今後私が直接ご予約を承ります。ただ、あなたの考え方と態度は大いに問題があると思いますよ。ホテルスタッフとして、あるまじきものです」

 職場でなきゃ、キレてしまいそうだ。しかしこの制服に身を包んでいる以上、そんなことはできない。
 

「——何あれ。パワハラじゃん」

 事務所を出て行く俺の背中に向かって、ぼそっと彼女が呟いたのは聞き逃さなかった。