現実は甘くない。
真面目に生きていても、悪いことは起こる。
神様は平等だ。
真面目に、真っ当に生きていたって良いことは起きない。
不真面目に、悪さをしながら生きていたって良いことは起きない。
だからやりたいことをしたもん勝ちだ。
結局は他人なんて気にせずに、自分のしたいようにした人が楽しく生きていける世界。
すごく単純でわかりやすい世界だ。
「時田」
息が多く含まれた声で呼ばれて振り返る。
みんなに無視されて、存在をなき者として扱われるわたしを呼ぶ人は、現在この学校に一人しかいない。
顎のラインを伝った汗をシャツの丸首部分で拭いながら呼吸を整えているのは、一年生のときに同じクラスだった大野くん。
サッカー部なのに肌はそこまで焼けておらず、清潔感のある黒の短髪で爽やかなスポーツ男子の雰囲気が全面に出ている。
そんな彼はもちろんモテる。
親衛隊がつくられているほどには。
「……どうかした?」
「時田がここにいるのが見えて、外周抜け出して来ちゃった」
「大丈夫なの?」
「おう!俺、抜け出すのとか得意だから」
呼吸を整えた大野くんは、太陽にも負けないくらいの眩しい笑顔を向ける。
その眩しさに目を細めた。
そんなわたしに気づくことなく距離を大きく一歩つめる大野くん。