『竜の聖女の刻印』が現れたので、浮気性のあなたとはこれでお終いですね!

 
「——あら?」

 翌朝、目覚めると左手の甲にある刻印が形を変えていた。
 ベルに聞くと、「結界特化の竜の刻印ですね」と教えられる。
 結界特化!
 刻印って仕事に応じて変化するのね。
 着替えて一階のヴォルティス様のお部屋に向かう。

「今日はトマトとふわふわ卵スープと、トマトたっぷりオムライスだ」
「くっ!」

 私がトマト好きだと完全にバレている——!
 なぜ! そんなにわかりやすい態度は、とった覚えがないのに!

「美味しいです……が! ど、どうして私がトマト好きであると……!?」
「トマトリゾットの時だけ完食するのが早かった」
「た、たったそれだけのことで!?」
「いや、かなり顔に出ていたぞ」

 なんですと……!

「さて、それを食べ終わったら結界の構築と修繕に出かけるといい」
「! は、はい。あの、それでこの刻印は——」
「結界に特化した『竜の聖女の刻印』にしておいた。もう少し慣れれば、お前自身の意志で、刻印を変化させることができるようになるだろう。その刻印を使い、聖魔法[結界]を用いれば細かな設定で結界を張ることができる。まずは王都の結界の修復をやってみるといい」
「は、はい、わかりました……」

 王都。
 それを聞いて少し、夢の内容を思い出した。
 この方は、初代聖女様に屈服、国に使役されるような形でここにいる。
 ご本人は気にした様子がないけれど、このままでいいのかしら?
 いえ、まずはあの夢が真実なのかを確認してから……ち、違うわ、レイシェアラ、落ち着きなさい。
 今日は結界を直したり、張ったりするのよ。
 すっかりしっかりお休みをいただいてしまったのだから、きっかり働かなければいけないわ。
 結界が消失して、国民の方々は不安な日々を送っているのよ!
 聖女として、頑張って働かなければ。
 ヴォルティス様にあの夢のことお伺いするのは、夕飯の時にしましょう!

「では、行って参りますわ」
「ああ、気をつけて」
「……っ?」

 ふわり、と微笑まれる。
 途端に顔が熱くなり、胸が、鼓動が跳ねた。
 なにかしら、今の。

「ご主人様、お出かけの前にひとつ、よろしいでしょうか?」
「どうかしたの、ベル」

 玄関から外へ出ると、ベルに引き止められた。
 振り返ると心配そうな表情。

「王都へ行かれるのですよね?」
「あ、そう——……ああ……そ、そうねぇ。で、でも別に会わないと思うし……」

 ベルが心配そうにしてくれている理由に、思い切り心当たりがある。
 そう、やんごとないアホだ。
 先日も殴り込んできたというし、王都に行くついでに陛下や王妃様にクレーム入れてきましょう……。
 強めに、本当にどうにかしていただかなければ。

「護衛を増やしてはいかがでしょうか。ベルが同行できたらよいのですが、本日はベッドシーツをお洗濯せねばならないので……!」
「え、ええと、でも、勝手に晶霊は増やせないでしょ?」
「ヴォルティス様には『必要ならいくら増やしても構わない』と許可はいただいております」
「そ、そうなの」

 じゃあ、護衛を増やした方がいいかしら。
 正直クラインだけでいいと思うんだけど、大型の狼の姿は人を怯えさせてしまいそうだもの……。
 あと、あのやんごとないアホに遭遇した時のことを思うと、私の心のケアをしてくれるもふもふ要員は多い方がいいわ。

「では晶霊を召喚するわ」
「はい!」

 ベル、力強い。

「えっと、ラックと、クラインもいいかしら?」
『ヒーン!』
『キャウン、キャン!』

 嬉しそうに飛び跳ねている。
 どうやら二人とも賛成してくれているみたい。
 ありがたく新しい晶霊を召喚させてもらう。

『にゃーん!』
「! 猫型!」

 素晴らしいもふもふ要員だわ!
 召喚した途端、私の肩に乗ってすりすりしてくれる、真っ白な猫。
 あ、あぁぁぁぁ……!
 犬の固めの毛質とは異なるビロードのようなさらさらふわっふわっの毛並み……!
 首の周りを歩いていく水のような動き。
 恐る恐る触れてみると、ぐにゃーんとする。
 ひいいいぃ!
 犬と全然違う……違いすぎる!
 なんか怖い!
 そして物足りない!
 獣臭が! 足りない!

「…………猫、苦手」
『にゃんと!?』
「その小ささで喋るの!?」
『猫型晶霊はこの状態でもお話しできるのですにゃん。それよりあるじ様、早く名前をつけてほしいにゃ』
「あ、そ、そうだったわね。……えーと、シロ、ではどうかしら?」
『にゃん!』
「よろしくお願いしくね、シロ」
『よろしく頼むわ、あるじ様!』

 新たな仲間も加わり、早速王都へ!



 ラックの背に乗って、王都へと移動する。
 結界は王都をすべて覆い隠すほど巨大。
 その発生地点となるのは、王城の玉座。
 なので、城に入って玉座に連れて行ってもらわねばならない。
 本来であれば「この日に伺います」と伝えておくべきなのだが……。

「レイシェアラ!」
「お父様! いきなりお伺いして申し訳ありません」
「いや、いいタイミングだ! すぐに玉座へ! あのアホが出かけている間に!」
「はい!」

 この時間帯はテディ様とお買い物に出かけているはず!
 事前に連絡してしまえば、私が来ることを耳にするかもしれない。
 うっかり『聖女ので迎え』の準備などされたら、いくらあのアホがアホでも不審に思うだろう。