国と国が合意した婚約を破棄をするにはそれ相応の理由が必要だ。今シャルロットが提案した理由は、どれを選んでも彼女の評判を貶めることになるだろう。
 それに、死んだことなどにすればそこからの人生は全く別人、かつ平民として生きることになる。王女であった彼女にとって、それは茨の道だろう。

(そこまでして婚約破棄したいのか?)

 嫌がる女性に無理強いすることはエディロンとて本意ではない。
 しかし、これは国益のための政略結婚なのだ。周囲から下にみられるダナース国に神に愛された国の王女を迎えることにより、周囲の認識を改めさせるための。

「シャルロット王女」

 エディロンの呼びかけに、シャルロットがびくりと肩を揺らす。

「これは国と国の約束事だ。あなたの〝生涯独身を貫きたいから〟という私的な事情で、取りやめることは難しい」
「そんな……」

 シャルロットの顔が、目に見えて青ざめる。
 彼女自身も自分が提案していることを押し通すのは難しいと理解しているのだろう。口をきゅっと引き結び、空色の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。