(エディロン様に、お誕生日おめでとうございますって言えなかったな)

 死を覚悟したとき、なぜか最初に思い浮かんだのはエディロンの顔だった。
 シャルロットは彼に婚約を破棄したいと一方的な要求を押しつけたにもかかわらず、いつも優しく接してくれた。

 周囲に響く悲鳴のような雄叫びと、悲鳴と歓声。

(怖いっ!)

 しかし、すぐにくると思っていた痛みはいつまで経っても来なかった。代わりに体を抱き起こされてぎゅっと抱きしめられる温もりを感じた。

「シャルロット。大丈夫か!? 怪我は?」

 恐る恐る目を開けると、シャルロットを抱きしめて心配そうにこちらを見つめているのはエディロンだった。

(これは夢?)

 ここにエディロンがいるわけがない。
 そう思うのに、夢でも会えて嬉しかった。

「陛下。暴れ牛は?」
「仕留めた。それよりも、あなたのことだ。膝を擦りむいているな。ああ、ここも血が出てる」

 エディロンはシャルロットの体の見えている部分を確認して、心配そうにしている。