「申し遅れましたが、私はハールス伯爵家のアントン=ハールスと申します」
「ハールス卿……」

 その名前に、聞き覚えがある気がした。

(ハールス卿って確か……)

 一度目の人生の際、会った気がする。
 確か、結婚式のあとに宮殿で挨拶をしたような……。
 
「王女殿下はこの本がお好きなのですか?」

 ハールス卿が持っていた本を軽く上げる。

「はい。知人に紹介されたのですが、とても面白かったです」
「そうなのですか。実は私もなんです」
「へえ……」

 珍しいな、と思った。その小説は若い女性をターゲットにしたものだったから。

(でも、男性でも好きな人は好きなのかもしれないわ)