(あの衣装は、クロム国?) 

 独特の刺繍がされた円筒状の帽子に見覚えがあった。クロム国は四度目の人生──騎士となったときにリゼットに同伴して訪れたことがある。
 クロム国から来た男性の前には会場の警備を行っている女性騎士が立っていた。

(どうしたのかしら?)

 何かこちらの不調法で不愉快な思いをさせてしまっただろうか。騎士を呼ぶようなトラブルが起こったのかと思い、シャルロットは慌ててふたりのほうへと近づく。

「ひとりで立っていては寂しかろうと気を利かせて誘ってやったのに、無礼なやつだ」

 怒り口調でそう言ったのは、豪華な刺繍が施された襟なしのジャケットに太めのズボンとという民族衣装に身を包んだ男性だ。首にはは何重にも重ねられた金細工のネックレスがかかっている。

(あら、この方……)

 黒髪に黒目、やや恰幅のよいその男は、まさに四度目の人生でシャルロットの夫となったクロム国の王太子その人だった。名前はアリール王子だったと記憶している。