健治が就任して１ヶ月後、健治を指導していた社員が突然に退職し、その後任を任されたのが遠藤だった。遠藤は営業成績こそ無難な数字を挙げていたが、指導力という面では頼りないところがあった。それでもあれこれと必死になって自分を指導してくれる遠藤を、健治は愛しく思うようになっていった。健治と遠藤は度々酒を交わす仲になったが、割と酒豪である健治に負けじと無理をしていつも酔い潰れてしまう遠藤を健治が介抱するというのがパターンだった。そんな遠藤の一面もまた、健治の心を優しく揺さぶった。

「事」が起こったのも、いつものように酔い潰れた遠藤を、健治の自宅で介抱していた時だった。ベッドに寝かせておいた遠藤に健治は腕を強く引かれ、そのまま抱き締められる形になった。その日はそれだけの事で終わったものの、健治と遠藤の関係がより深いものになるのに、そう時間はかからなかった。