「齊藤!ちょっと来い!」






久しぶりに呼ばれた職員室。






所詮、呼んだのは体育の先生。






どうせ怒られるだけだろう。






めんどくさいとしか感じないのはもはや重症だと我ながら思う。













「あー、だるいー、」






命じられたのはまさかのプール掃除。






暑い、汚い、めんどくさい、






この三拍子で頭の中が埋もれる。






しかも…一人ならまだましだ。






サボって帰ればいいだけだから。






「まぁ、いつも授業サボってる罰だよな。」






デッキブラシを持った姿が何とも似合わない。






お目付け役兼、サボり組ということで二人で掃除をすることになっていたのだ。






なぜか自然と話すような関係になってしまった私たち。






でも、彼のことは何も知らないし、







彼も私のことを何も知らない。






「ねぇ、なんでいつも体育の授業サボってるの?」






何気なく出た言葉を装い、ずっと気になっていたことを問う。






自分から聞いたのに、心臓の鼓動が速くなりうるさい。






どうしよう…自分と同じようだったら。






無理やり壁を壊してしまうようだったら。






「苦手なんだ、運動。」





シンプルなその答えにホッとする。





「ぃ、意外だね…!」






ルックスも良くて、ある程度の身長も持っている。






周りに自然と人が集まってくるタイプで、いつも楽しそう。






何でも出来るタイプ、の人間だと勝手に思っていた。






「そう?俺足遅いし、泳げないよ?」






初めて知った。






彼にも弱いところがあるんだ…






「齊藤さんは?」






急に話題が私に向いたので、一瞬、理解が追い付かなかった。






齊藤さん、






ひなでいいよ、と言いかけた口をぎゅっと結ぶ。






「私も。泳げないんだ。」






少し震えた声が自分に返ってくる。






ガタガタと震える手を強く握った。