「今日もまたお前らか。」






先生が呆れてそう言い、名簿に【見学】と書く。






私の頭を照らす日光は今日も絶好調で、じりじりと熱を伝えてくる。






ぼうしがあってもほぼ意味はない。






いーちにーさーんしー、準備運動をする声と先生の説教、そして蝉の声が私の眠気を誘う。






「おい!聞いてんのか!」






怒鳴られるのも毎度のことだ。






高校生にもなって水泳の授業を楽しんでる奴らの気持ちが私には分からない。






日焼けするし、塩素で髪は痛むし、…






いいことなんて1つもないゆえ…






なにより私は泳ぐことが出来ない。






小さいころからプールには1度も行ったことはないし、小学生からずっと授業も見学している。






そんな私はこの高校の水泳の授業が【選択】だと知り、どれだけ大喜びしたか…






今となってはバカみたいだ。






またこうして授業を見学する日々が続いているのだから。






いくら選択だからといって、一定数は授業を受けなければならない。






水泳部や、もともと泳ぐのが好きな子…






だけで人数は足りなく、じゃんけんで負けた人が水泳の授業を受けるということになった。






絶対に負けられない場面。






そこを見事に私は負けたのだ。






ついてない。






その一言に尽きなかった。





長い説教を終え、フェンスを背中にプールを眺める。






キャーキャーと楽しそうな声は耳に届いては通り抜けていく。





ガシャン





少し隙間を空け、彼がフェンスにもたれ掛かっていた。





『髙松 優』





私と同じで毎回見学をしているので自然と顔見知りになってしまった。





異常なほど整ってる顔立ち、良いスタイル…






学年で密かにモテている人物だが、彼の耳には入っていないだろう。






興味の無さそうな顔でいつも一緒にいる男友達を見ている。






(なんで見学してるんだろう…)






そう不思議に思ったが、彼は大抵、体育の授業に顔を出していないことを思い出した。






運動している姿を一度も見たことがない。






「ねぇ、」






なんて彼のことを考えていると、ソッと横から話しかけられた。






「次の授業なんだっけ?」






初めてはっきりと聞いた声。






男子にしては少し高めではっきりしているが、奥行きがある。





「分かんない?」






度ストライクで好みな声で話される。






真っ正面から見た顔も綺麗だった。






「ごめん…私髙松くんと違うクラスだよ、」






体育の授業は3·4組合同で行われているから一緒だが、次は普通の授業なのでバラバラだ。






「え?そうだっけ、、?」





なんて言い、よく考えている様子。






3年なってもう3ヶ月近く経つのにまだクラスの人の名前を覚えてないらしい。






「3年4組の齋籐陽菜です。」





自己紹介をすると、初めて名を聞いてようなリアクション。





クラスの人の名前も覚えてない人なら私の名前なんてより知らなかっただろう。






「3組の髙松優です。」





私がしたからか、一応言われる。






本人の口から聞く情報は、なんだか特別に感じた。