「智花の家車もないし、人がいる気配もないな。

最近学校にも来てないし、家族旅行にでも行ってんのか?」



そんな軽い考え事をしながら俺は急ぎ足で学校へ向かった。



今日の学校はいつもよりどこか暗く、どんよりとした雰囲気だった。いつも通り陽キャグループの男子は騒ぎ散らして



「うるさいなぁ」



そう感じていた。



担任が教室に入ってきた瞬間いつも通り生徒は席に着き、朝のホームルームが始まろうとしていた。



しかし、今日の担任は明らかにいつもより顔が暗かった。






それはあまりにも突然の報告だった。






「皆さんにご報告があります。昨夜、山之内智花さんが病気のため、亡くなりました。」




この言葉を聞いた瞬間俺の頭の中は真っ白になった。



「病気...?なんで?いつもあんなに元気だったの...あ...」



《鈍感》な所が俺の悪いところ。

どうしてもっと早く気づいてられなかったのか。この後悔だけが俺の心に居残った。

嘘だ。智花は死んでない。嫌だ。智花に会いたい。

いつもみたいにあいさつしてくれよ。走って教室の扉から入ってきてくれよ!



そう祈っても、智花が学校に来ることはなかった。



「智花は死んでない。先生のバカ。

家に寄れば智花が笑顔で迎えてくれるはずだ!」



俺は走って智花の自宅へ向かった。



ピンポーン



「はい...」



活力のない母親の返事が聞こえてきた。

少しの希望をもって俺は智花のお母さんに問いかけた。



「聡志です!!智花さんいますか!?」



「今出ます。」



出てきたのは正喪服に身を包んだお母さんだった。



「智花さんは!!??」



「先ほど智花の葬儀を終えてきたところです。智花は聡志さんの事を毎日楽しそうに話していました...

智花から病気の事をみんなに黙っていてほしいと頼まれました。」



俺は膝から崩れ落ちた。自然と目が熱くなり、次の瞬間大粒の涙が出てきた。



「そうだったんですか...」



「聡志君。中に入って智花に挨拶していってください。」



俺は袖で涙をぬぐいながら無言で智花の部屋へ入っていった。



「1人にしてもらってもいいですか。」



智花のお母さんは無言で部屋を後にした。



「なんで病気の事黙ってたんだよ。なんで俺に言ってくれなかったんだよ!!!

俺は智花の手下なんだろ?手下の俺にだけ教えてくれてもよかったろ...

なんで...」



智花の部屋は綺麗に整頓されていた。普段からこんなにきれいだったのかは分からない。

俺はふと机の上を見たら俺の名前が書かれた封筒が置かれていた。



「聡志へ...?」



俺はその封筒を手に取り封を開けた。

封筒の中には2枚の紙が入っていた。



「聡志、いや手下くんへ



いやぁ告白されたときはびっくりしたよ!!あの時は断っちゃって悪かったね。私は持病をもっていて、そう長くなかったんです。だから、聡志には迷惑かけれないなと思ってさ。私よりいい人いっぱいいると思うし!!



私さ、この高校へ転校する前、なんでも屋っていうのやってたんだよ。理由は誰かの役に立ちたいってのもそうなんだけど、ほら、私たぶん大人になれないからさ!仕事をする大人が感じる『生きがい』ってのを感じたくてやってたんだ。

なんでも屋を通して人の役に立つのはいいなって思った!でも、高校に入ってそれよりも大きい生きがいを感じてたんだよね。それは聡志に会う、しゃべるってこと。

聡志ってさ、なんか冷たくて、素っ気なくて明らかに私の事嫌ってるでしょ!っていう反応だったけど、そこが聡志の好きなとこなんだ!!笑



この文を聡志が読んでるなら私はもうこの世にはいないと思う。でも、どうか、私の事忘れないでほしい。告白されたときはOKしようか迷った!笑

私の分まで聡志には幸せになってほしい。しつこくてごめんね。伝えたい事まだまだいっぱいある!!!

でも、私の左手がもたないや笑

あ!最後に!!私の嫌いな言葉知ってる?笑

『さようなら』この言葉が一番嫌いなんだ~笑



またどこかで会おうね。



智花(聡志の一番嫌いな奴)より」



智花の書いた文章の最後は滲んでいた。



「ばかやろう...一番好きだよ」










「久しぶりだな智花。」



智花が亡くなって10年が経った。

俺は智花が眠る場所へ向かった。



俺は智花がこの世を去ってから『生きがい』について考えた。

その結果、人々を熱狂させ、場の空気を揺るがすことのできる格闘家を職業にする事にした。

これが俺にとっての『生きがい』。

智花が生きれなかった今を俺が代わりに生きる。

なんか人生を一緒に歩んでる気がするな。



後、智花に月1で会いに来ることも俺の生きがいだな。




「お前の好きだった白桃ジュース持ってきたぞ。今日は暑いからな。向こうでも体調には気をつけろよ。」



俺のリングネームである’’竹山 智さとし’’



この智は智花の名前を借りたものだ。



「智花。試合控えてるんだ。見守っててくれよ。」



「手下さとしくん!!頑張ってね!!一緒に戦おうか?笑」



何処かで聞こえたような気がした。



「俺がこれだけ勝ち続けてるのは智花のおかげかもな。」



夏の空に煌めく太陽を見上げながら俺は白桃ジュースを飲んだ。