あーどこかに可愛い子いないかな?


彼女欲しいーなどと呟いているこの男は、間違いなくここ滝川神社の跡取りである。神聖な神社にそぐわない明るい茶髪とヘーゼル色の瞳それと左右合わせて5個空いているピアスの風貌はどこからどう見ても異常である。180センチをゆうに超えているスタイルの良さも、これでは気にもならない。長いまつげに縁取られた大きな瞳。シュッとして整っている鼻筋。ふっくらとした桜桃のような唇。そうなのだ。ルックスは文句の一つもないぐらいの完璧な姿。

きっと誰もが、彼がこの神社の跡取りであると知らなければ、きっと信心深いヤンキーなんだなと驚くぐらいだろう。
だがそのようなことなど何も知らない参拝客からすれば、巫女の衣装を着て境内に座り込んでいる彼の様子はやはりいささか不気味である。しばらくすると、社殿の中から1人の少年が彼に向かい、声をかける。170センチの身長に黒い髪、色素が薄い瞳 眉目端麗なその少年は目当ての人物をみかけると微笑みながら駆け寄る。


お兄ちゃん!何してるの?もうすぐ滝川神社の例大祭があるからその準備で忙しいって知ってるよね?
やや不機嫌そうに口をとがらせながら、彼に向かい不満を漏らす。

どうやら少年は弟のようだ。すると、男は気だるそうにしながら返事をする。

わーってるって。例大祭で舞う演舞の練習はしてるのかって言いたいんだろ?清月さんよ?違うかい?

なんだ。わかってるじゃん。と少年は言う。
しかし、男は悪びれもせず、少年に向かい語りかける。

清月さん。俺、高校生よ?アオハル真っ最中なんだぞ。目一杯楽しまないと損じゃん?
だから、たまには休ませ
ろってー。

その瞬間、少年が間もおかずに男の発言に切りかかった。
そう言っていつも休んでるの誰だっけ? 今度は怒っている声で少年が言う。
だいたい俺が舞をしたところで誰が喜んでくれるんだよ。清月がやった方が絶対いいって。
何言ってるの?お兄ちゃん。本当にそう思ってるの?神力が今までで1番強くて滝川家最強って言われてるのに。
お兄ちゃん以外に誰も出来ないよ。
そんなのじいちゃんが勝手に言ってるだけだろう。そもそも神力とかってどうやって使うんだよ?
俺は舞を覚えてないし、清月の方が適任だよ。
まだそんなこと言うの?おじいちゃんもお兄ちゃんが舞うのを楽しみにしてるんだよ。ずっと前から。1度でいいからやってよ。
しつこいな。わかったよ。やるよ。これでいいだろ?
男は面倒くさそうに言う。
清月はため息をついた。
夜になって満月が地を照らすとき誰かが神社にある湖の近くで1人たたずんていた。半袖短パンのラフな出で立ちをしているが手には舞で使う神剣を構えている。

あー どうしようかな?舞えるかな
などと1人で呟いている。やがて口で曲を口ずさみながら軽やかに体を動かしていく。弟と話していた時とは全く様子が違う。その場がまるで時がとまったようになった。一通りすると男はその場に座り込んだ。ふうっとため息をつく。男が空を見上げた。今夜は満月。月の力が1番強い日。
俺はふさわしくないな。跡取りとして。そういうと立ち上がり家へと戻って行った。
隼人!もうすぐ例大祭だ。準備はしておるのか?
嬉々とした様子で60歳ぐらいの男性が話しかける。
そばには衣装に身を包んだ隼人。その隣には清月がいた。まるで双子のようだった。1歳しか違わない隼人と清月は赤ちゃんの頃からよく双子と間違えられてきた。正確に言うと10ヶ月しか違わないのでさらに双子にしか見えないのである。そんなふたりが似たような装束に身を包み佇んでいるのだ。どこからどう見ても双子のようだ。唯一違う点は髪の色ぐらいだろうか。それに普段は耳飾りをつけない清月が今日は例大祭ということあって滝川神社の象徴ともいえる月の模様をあしらった青い耳飾りをしている。それに対してはやとは模様は同じだが黄色の耳飾りをしていた。どうやら対になっているみたいだ。