「あ?いいよ、お前にそんなことさせらんねえ」

「いいってば!まああたしもお年寄りのおむつ替えなんてやったことないし座学でしか頭に入ってないけどなんとか出来るでしょ」

「いや・・・・・でも」


俺の戸惑いを他所に彼女は辺りを探しておむつの入った袋をみつけるとばあちゃんに向かって手招きをする
案の定ばあちゃんは何事かとその場に固まったまま
ばあちゃんは俺とヘルパーさん以外の奴におむつを替えさせたことがないから無理なんじゃないか?実はこの時そう思っていた
だってさっき知識としてはあるけどおむつ替えをしたことがないって言ってたし
こいつ大丈夫か?その心配をよそに彼女は俺に飯の用意をしろと言ってきた

「あたしがおむつ穿かせるから大和君はご飯をよろしく!」


「あ、ああ・・・・っていうか本当にお前大丈夫かよ?俺がやったほうが」


「大丈夫、色々な人に替えてもらうの慣れといたほうがいいんじゃないかってあたしの考えっていうかまあそんな感じ」



そう自分に言い聞かせるかのように窓際に近づくと彼女は少し窓を開けた
少し換気するよって言うとキョロキョロしている
俺は慌てて脱ぎ捨ててあるおむつをゴミ箱に捨てた
っていうか脱ぐなよ・・・・俺の仕事が増えるだろ
幾らばあちゃんのことが好きでもこう毎日毎日だとイライラが募る
ばあちゃんは正気に戻ったりボケていたり色々な面を俺に見せていた
正気の時のばあちゃんは昔のままの俺の大切なひと
だけどボケているばあちゃんはこれがばあちゃんなのかってくらい我儘になったりするから俺はかなり心が折れかかっていた
そんな時に現れた百花は嫌な顔ひとつしないでばあちゃんに向き合おうとしている
こいつは他の女とは違うな・・・・・
そう思いながらばあちゃんのおむつ用具一式が置いてある場所に案内した


「じゃあ・・・・とりあえずあったかい蒸しタオルで拭いたほうがいいよね」
「ああ、これにお湯入ってるし、おむつはこれ」
「そっか、じゃあ・・・・大和君おばあちゃんの名前教えてくれる?」


・・・・・は?
な、名前?名前って?
一瞬何を言われたのかわからなかった
なんでそんなことを今聞くんだろう俺の疑問をよそに彼女はまた意外なことを言い出して俺を驚かせた


「確か・・・・る、瑠璃子だった」
「たしかって、大和君のおばあちゃんでしょ?」
「そうだけどばあちゃんの名前なんて俺が思う限り呼んだことがねえし」
「まあ・・・・そうだよね、前にお母さんが言ってた時があってさ、女の人ってお母さんになると○○ちゃんのお母さん、孫が出来るとあばあちゃん、あんまり名前で呼ばれることがなくなるって・・・・だからお母さん看護師さんしてるでしょ?患者さんを名字で呼ぶことが多いけど患者さんに時折名前で呼んでって言われるときがあるって・・・・凄く喜ばれるんだって言ってたからおばあちゃんもそうかなって」



眼から鱗ってこういうことを言うんだろうか
彼女の言わんとしていることに納得だったけど・・・・何故だか心の奥に淡い思いが芽生えているのを感じずにはいられなかった