「俺は、特別辛いのが得意って訳じゃないし…。辛過ぎて味わえないのも嫌だから、精々1辛くらいにしようかな」

と、奏さんは言いました。

1辛ですか。消極的な判断です。

まるで久露花局長のようですね。

いえ、まずあの方の場合、カレーショップに足を運ぶということすらしないと思われます。

つまりは0辛ですね。挑戦すらしない。

しかし、私は『人間交流プログラム』を遂行中の『新世界アンドロイド』です。

人間の食文化を知ることは、人間の生態系を知ることでもあります。

そして、世の中には。

何事も、やるなら全力で、という言葉もあります。

よって。

「瑠璃華さんはどうする?初めてなら、俺とおな、」

「では10辛にしましょう」

「えぇぇぇぇ」

と、奏さんは奇声をあげました。

何か不可思議なものでも見えたのでしょうか。

「メンチ、チキン、トンカツ三種盛りカレーの特盛を、10辛でお願いします」

と、私は店員に言いました。

すると。

「ちょ、瑠璃華さんヤバいって。初めてなのに10辛なんて、さすがに挑戦し過ぎ、」

「三種特盛10辛、畏まりました〜!少々お待ちくださ〜い!」

「店員さん…止めてよ…」

と、私を諌めようとした奏さんの言葉は、明るい店員さんの声に掻き消されました。

注文完了ですね。

「お連れ様も、ご注文をどうぞ!」

「…夏野菜カレー、並盛り。1辛で…」

「夏野菜並1辛、畏まりました〜!」

と、店員さんは元気に、注文を受けてくれました。

とても朗らかで、気持ちが良いですね。

それでは、無事に注文も終わったことですし。

あとは、注文した品が届くのを待つことにしましょう。