「一応聞いておくけど…。何で、その本が一番のおすすめなの?」

と、奏さんは聞きました。

とても良い質問です。

「この『猿でも分かる!』シリーズは、ジャンルを問わず、様々な種類の本を出版しています」

「だろうね」

「その中でも、この『猿でも分かる!ヘリの操縦法』という本は、とても万能です。何故なら…」

「…何故なら?」

「ヘリの操縦法が分かるからです」

「…うん。それはタイトルで分かるよね」

と、奏さんは言いました。

「何より、この本の一番の魅力は、これ一冊でヘリの操縦法が分かるところです」

「いや、さすがにそれ一冊では無理でしょ…」

「いえ、一冊で可能です」

「何その自信…」

「かつて、この本一冊で、本当にヘリを操縦し、国境を越えた実例があると聞いたことがあります」

「そんな人いるんだ…。無謀だなぁ…」

と、奏さんは呟きました。

その無謀なことを、本一冊でやってのけたのです。

充分、称賛に値すると言えるでしょう。

「そんな訳ですから、奏さん。あなたもこの本を読んで、ヘリを操縦してみては如何でしょう」

「うん、ありがとう。まず試さないし、そもそも操縦するようなヘリを持ってないよ、俺は」

と、奏さんは言いました。

それは残念です。

「では…そうですね。他にもおすすめの本はありますよ」

「うん。どんな本?」

「『猿でも分かる!モテ女になる方法』は如何でしょう」

「…」

と、奏さんは無言でした。

興味を持って頂けたのでしょうか。

「こちらも、『Neo Sanctus Floralia』にいた頃に読んだことがあるのですが」

「…読んだことあるんだ…」

「はい。モテ女になる為の秘訣が書いてありました。どうですか?」

「うん、ありがとう。読まないよ」

と、奏さんは笑顔で言いました。

それは残念です。おすすめだったのですが。

「では…そうですね。他におすすめの本と言ったら…」

「頼む。マシな奴…。マシな奴来い…」

と、奏さんは祈るように呟いていました。

マシな奴とは、どういう意味でしょう。

「『猿でも分かる!中二病になる方法』という本もありますね」

「あぁ…。慈悲はなかったか…」

と、奏さんは遠い目で呟きました。

慈悲とは、どういう意味でしょう。

「どれも、とても興味深い本ですよ」

「うん、興味深いのは確かだけど…。でも、読書感想文にするには、向かない本だと思う」

と、奏さんは言いました。

それは残念です。

「そうですか…。仕方ありませんね」

「そうだね。何か…別の、読書感想文に向いてそうな本、」

「では奏さん。『猿でも分かる!初心者の本格キャンプ』なんて、どうですか?」

「…瑠璃華さん、いい加減、そのシリーズから離れない…?」

と、奏さんは言いました。

一冊で様々な分野の知識を得られる、私のお気に入りシリーズだったのですが。

どうやら、奏さんには向かなかったようです。

残念ですね。