ともあれ。

そうと決まれば、無人島知識を身に着けている場合ではありませんね。

まずは、先程奏さんが口の端に上らせていた、

読書感想文、なるものの説明を聞きましょう。

「奏さん。読書感想文とは何でしょう?」

「あ、うん。現代文の宿題で出てたよ。読書感想文…一言で言えば、読んだ本の感想を、原稿用紙に書くんだよ」

と、奏さんは説明してくれました。

「読んだ本の感想ですか…」

「そう。それを原稿用紙3枚にまとめるのが課題」

と、奏さんは言いました。

原稿用紙3枚と言うと、およそ1200字ですね。

論文ほど長くはないので、簡単そうに思えますが。

「その本というのは、何の本を読めば良いのでしょうか」

「そうだな…。特に指定されてないから、好きな本を読めば良いと思、」

「では折角ですから、この『猿でも分かる!無人島サバイバル知識』の感想文を書くことにしましょう」

「…うん。まぁそう言うだろうとは思ってたよ」

と、奏さんは視線を逸らしてそう言いました。

何故視線を逸らすのでしょう。

「駄目でしょうか?」

「いや、駄目…駄目…ってことはないだろうけど…。先生はびっくりするたろうね…」

「何にですか?」

「いや…何でもないけど…」

と、奏さんは言いました。

やはり、視線を逸らしています。

何か面白くないものでも見えたのでしょうか。

「俺、原稿用紙持ってきてるから、瑠璃華さん、ここで感想文書く?」

「良いのですか?」

「良いよ。折角やる気が出たんだし。筆記用具も貸すから…はい」

と、奏さんは鞄の中から、原稿用紙数枚と、シャープペンシルと消しゴムを貸してくれました。

有り難いですね。

持つべき物は、心優しき友人です。

私は勉強道具を何一つ持ってきていなかったので、助かりました。

「ありがとうございます。では、早速書き始めますね」

「うん、頑張ってね」

「はい。…では、まず無人島に漂着したと仮定して…」

と、私は呟きながら、原稿用紙に向かい合いました。

「…勧めといて何だけど、本当にその本で良いのか、不安になってきたよ…」

と、いう奏さんの呟きは、集中していた私の耳には、既に届いていませんでした。