アンドロイド・ニューワールドⅡ

これには、奏さんもびっくりしていました。

「…え?読書感想文…。夏休みの宿題にあったよね?」

「そうなのですか?」

と、私は尋ね返しました。

読書感想文とは何でしょう。そんなものを書いた覚えはありません。

「…あのさ、瑠璃華さん。一個聞いて良い?」

「謙虚ですね、奏さん。一個と言わず、いくつでも聞いてください。何なら、無人島に関する知識を聞いてくださっても結構ですよ」

と、私は言いました。

ただいま、絶賛学習中ですからね。

「うん、無人島の知識は別に要らないんだけどさ。それより瑠璃華さん…君、ちゃんと宿題やったの?」

と、奏さんは疑わしそうな目で聞きました。

「宿題?何のですか?」

「これだよ、これ。夏休みの宿題」

「夏休みの?いいえ、全く、何一つやってはいませんが」

「やってないんかいっ!!」

と、奏さんは芸人風に突っ込みました。

なかなかキレが良いですね。漫才師の素質がありそうです。

しかし、ここは図書館です。

「奏さん、騒がしくしてはいけません。ここは図書館ですから」

と、私は奏さんを戒めました。

先程の奏さんの、渾身のツッコミに、周囲の数名が気づいて、こちらを見ています。

「あ、あぁうん、ごめん…。…って、何で俺が謝ってるのさ」

「はい?」

「あのさぁ、瑠璃華さん。瑠璃華さんさぁ」

と、奏さんは訴えるかのように言いました。

「電話したとき、『まだ宿題終わらせてなかったのか』的なこと言ってたから、瑠璃華さんはとっくに終わらせてるんだと思ってたよ」

「そうですか。誤解させて申し訳ありません。何一つやっていません」

「…威張って言うことじゃないよ…」

と、奏さんは呟きました。

威張ったつもりはなかったのですが。

事実を言ったまでです。

「そういえば、瑠璃華さんは前からそうだった。頭良いのに、中間試験をまともに受けなかったり…。…今回も、夏休みの宿題やってないって言うし」

「はい」

「やろう?真面目にやろう?幸い、まだ夏休みは終わってない。瑠璃華さんも、今から真面目に宿題やろう?」

と、奏さんは言いました。

随分ゴリ押ししてきますね。

夏休みの宿題って、そんなに大事なものなのでしょうか。

「瑠璃華さん頭良いんだから、きっとすぐ出来るよ」

「そうでしょうか。『人間交流プログラム』は、人間の感情を知る為の計画であって、別に成績の是非を問う計画ではないので、宿題に取り組む必要はないと判断していたのですが」

「それは甘いよ、瑠璃華さん」

と、奏さんは言いました。

甘い?私がですか?久露花局長ではなくて?

「夏休みの宿題をやることは、人間を知る為に重要なことだと、俺は思うよ」

と、奏さんは非常に、聞き捨てならないことを言いました。

「…そうなのですか?奏さん」

「そうだよ。夏休みの宿題っていうのは、普通の人なら、小学校の頃からずーっと付き合ってきた、夏休みの大敵。これをどうやってこなすか、人によって大きく個人差があるし、性格も出るんだ」

「具体的には、どんな個人差でしょう?」

「大きく分けると二つだね。早めに終わらせて、残りの夏休みを心置きなく楽しむエンジョイ勢と。夏休み最後の日に全てを懸ける、無謀なエンジョイ勢」

と、奏さんは言いました。

両方、夏休みをエンジョイしていることに変わりはないのですね。

「人は大抵、どちらかの派閥に分かれるものだよ。まぁ、俺みたいな…ちまちま計画的にやる派もいるけど」

「そうなのですか…。奥が深いですね」

「そう、凄く奥が深いんだよ。だから、そんな奥深い人間の心を知る為にも、瑠璃華さんも夏休みの宿題は、ちゃんとやった方が良い」

「成程、分かりました。実に説得力のある言葉でした」

と、私は言いました。

まさか夏休みの宿題に、そのような重大な要素が含まれているとは思いませんでした。

反省が必要ですね。

今日は、反省するべきことがたくさんあります。

「ありがとうございます、奏さん。私は、今日から真面目に夏休みの宿題に取り組むことにします」

「うん、そうしようか」

と、奏さんは言いました。

そして。

「…なんか、段々瑠璃華さんの操縦方法が分かってきた気がする」

と、奏さんはポツリと呟きました。

操縦方法?何のことでしょう。