アンドロイド・ニューワールドⅡ

本を読み始めてから、およそ15分ほどが経過しました。

順調に、私の無人島サバイバル知識も、身についてきました。

私は、久し振りに読む本に、かなり没頭してしまっていたようです。

「…かさん、瑠璃華さん。るーりーかさん」

と、奏さんが何度も呼んでいるのに、しばし気づきませんでした。

「成程…。水と火を確保した後、打ち上げられている漂流物を物色、使えそうなものを利用してシェルターを…」

「うん、無人島知識をありがとう。それより瑠璃華さん」

「…はい、何でしょうか」

と、私は気がついて顔を上げました。

私としたことが。本に夢中になって、奏さんが話しかけているのに気づきませんでした。

『新世界アンドロイド』として、恥ずべき失態です。

反省が必要ですね。

「ここ、教えてくれないかな」

「はい、お任せください」

と、私は身を乗り出して言いました。

奏さんの手元を見ると、彼は今、数学の宿題に取り組んでいるようです。

奏さんとは、これまでも定期試験の為、何度も学習会を開いています。

従って、奏さんがどんなところに躓くのか、どのような教え方をしたら良いのかは、熟知しています。

「…と、こうなる訳です。理解出来たでしょうか?」

「成程…。じゃあ、ここの答えは…bかな?」

「正解です。さすがですね」

と、私は言いました。

奏さんは物覚えが良いので、教えていて気持ち良いです。

「分からないのはここだけでしょうか」

「あ、うん。今のところは」

「では、私は読書に戻りますね」

「…よっぽど気に入ったんだな、その本…」

と、奏さんが呟く頃には。

私は再び、本に熱中していました。

「…あ、そうだ瑠璃華さん」

「…成程。食べられそうな野草や果物を発見したら、まずは皮膚を使ってパッチテスト。それをクリアしたら、今度は舌で…」

「うん、サバイバル知識は良いから。瑠璃華さんってば」

「…はい、何でしょうか」

と、私は顔を上げて言いました。

またしても、読書に熱中し過ぎて、奏さんが何か話しているのを聞き逃してしまいました。

反省すると言ったのに、全く反省出来ていません。

反省が必要ですね。

「それだけ本が好きだったら、読書感想文書くのも楽だったんじゃない?羨ましいよ。俺なんて、まだ読む本も決めてない」

と、奏さんは言いました。

しかし、私はというと。

「…読書感想文、ですか?」

と、私は首を傾げました。

一体、何の話でしょう。