…来ましたね。

いずれ来るとは思っていましたが、とうとう来ました。

ここで会ったが百年目、という奴です。

はじめまして。

「皆さん、行きたいところがあったら候補をあげてください」

と、湯野さんは言いました。

…しかし。

「…」

と、クラスメイトは、皆さん微妙な表情を浮かべて無言です。

何故黙るのでしょう。

文化祭の出し物を決めるときは、皆さん我も我もと意見を出し合っていたのに。

今日は静かですね。

そのような日もあるでしょう。

すると。

「…行きたいところって言ったって、うちのクラスは、行きたいところには行けないだろ」

と、クラスメイトの一人が言いました。

…?どういう意味でしょう?

「そうよ。うちのクラスには緋村がいるんだから。結局緋村に合わせなきゃいけないじゃん」

と、別のクラスメイトの一人が言いました。

あっ。

成程、そういうことですね。理解しました。

確か以前、奏さんご本人も仰っていましたものね。

自分のせいで、遠足の行き先も限られてしまうのだと。

それが申し訳ないと。

そういうことなのですね。

奏さんをチラリと見ると、案の定、非常にいたたまれない表情で、俯いて縮こまっています。

「どうせ、つまんないところしか行けないんだから。何処でも良いわよ」

「ならいっそ、休日にしてくれれば良いのにな」

「また工場見学とか?もう飽きたわよ」

と、クラスメイトは口々に言いました。

これは酷いですね。

分かりました。

「びー!びー!」

と、私は大声で言いました。

クラスメイトが、一斉に私を見ました。

「…何なの?電波ちゃん…。びーって…」

「?警告音です」

と、私は言いました。

分かりませんでしたか?

「去年まではどうだったかは存じませんが、今年は皆さん、遠慮なく行きたいところをあげてくださって結構です」

と、私はクラスメイトの皆さんに言いました。

「例え行き先が何処であろうと、私が奏さんをお連れします。決して、皆さんにご迷惑はかけません」

と、私は宣言しました。

「瑠璃華さん…」

と、奏さんは呆気に取られたように、顔を上げて私を見つめていました。

大丈夫です。ご安心ください、奏さん。

例えエベレスト登山であっても、スカイダイビングであっても、ナイアガラの滝であっても。

私が責任を持って、奏さんをお連れします。

皆さんにご迷惑はかけません。