アンドロイド・ニューワールドⅡ

…10分後。

「お待たせしました、奏さん」

「あ、お帰り瑠璃華さん。何か良い本は見つかった?」

「はい。興味深い本を見つけました」

「へぇ、どんな本?ミステリ小説とか、」

「『猿でも分かる!無人島サバイバル術』です」

「…またそのシリーズ…。しかもそんな微妙な…何処で役に立つのか分からない無駄知識を…」

と、奏さんは呟きました。

無人島サバイバル術ですから、役に立つのは無人島でしょうね。

「よく考えてみてください、奏さん。人生、いえ私の場合はアンドロイド生ですが、長生きしていれば、いついかなるとき、どんな事態に陥るか分かりません。もしかしたら、ある日いきなり無人島に漂着するかもしれません。そんなとき、この本を読んでいて良かった!と思うことになるでしょう」

「うん。まぁなくはないかもしれないけど、人生のうちにそんな場面に遭遇する可能性は、恐らく限りなくゼロに近いだろうね」

と、奏さんは言いました。

可能性ゼロに近い、つまり裏を返せば、ゼロではないということです。

全く有り得ない訳ではないのですから、知識として身に付けておいて悪いことはないでしょう。

しかもその知識が、猿でも分かる本一冊で、無料で得ることが出来るのですから。

是非とも読んでみるべきです。

…と、思いましたが。

「奏さんに、宿題を教えるんでしたね。悠長に本を読んでいる暇はありません」

「え?いや、大丈夫だよ、読んでて。分からないところがあったら、そのときは聞くから。教えてくれる?」

と、奏さんは私を気遣って、そう言いました。

「それで良いのですか?」

「うん。そこのテーブル席が空いてるから、座ろう」

「分かりました」

と、私は答えました。

木製を椅子を避けて、奏さんの車椅子を押し。

私は、奏さんの向かい側に腰を下ろしました。

奏さんは、鞄の中から課題のテキストと、ペンケースをを取り出し、宿題を開始。

私も、早速本を読み始めました。