「それに何より…転校先に瑠璃華さんがいないのは、確実だから」

「…」

「それだけで…転校したくない理由になる。先生達がいくら冷たくても、エレベーターが一基しかなくても、好きな部活に入れなくても。でもここには、瑠璃華さんがいる。俺の人生で初めての、一番の親友がいる」

と、奏さんは言いました。

「昨日言ってくれたよね、瑠璃華さん。俺がいなくなったら…寂しいって」

「…はい、言いましたね」

と、私は頷きました。

その節は、困らせてしまって申し訳ありません。

しかし。

「俺も同じ気持ちなんだよ」

と、奏さんは言いました。

…奏さんも。

私と、同じ気持ち。

「瑠璃華さんと離れるのは寂しい。まだ、一緒にいたい。…このままじゃ、結局俺の気持ちに気づいてもらえないままだし…」

「…?」

と、私は首を傾げました。

奏さんの気持ちに気づかないって、それはどういう意味ですか。

「俺は来年も、再来年も、卒業まで瑠璃華さんと一緒にいたい。まだ見ぬ新しい友達より、今ここにいる、俺と一緒にいてくれる瑠璃華さんと、もっと一緒にいたいんだ」

と、奏さんは言いました。

「それが、俺の選択。俺が一番、幸せになれる道なんだ。たくさん考えて、そう決めた」

「…奏さん…」

「一緒にいよう、この先も、これからも。それが、俺の幸せだから。…瑠璃華さんにとっても、そうだったら嬉しい」

と、奏さんは笑顔で言いました。

…そうですか。

それが、奏さんの選んだ選択ですか。

自分の心に、素直に…正直に…従って、決めた答えですか。

その選択の結果、奏さんは幸せになれるのですね。

そしてあなたの幸せは、私にとっても同じ…。

「…ぷしゅー」

「…は?」

と、奏さんは首を傾げました。

が、私はそのまま、湯気を吐いてその場に崩れ落ちました。

色々と考え過ぎて、頭がショートしてしまったのです。

「る、瑠璃華さん!?大丈夫!?」

と、奏さんは声をあげましたが。

私は、その場に崩れ落ちたまま、立ち上がれませんでした。

現在、自動冷却システムが作動しています。

冷却が完了するまでは、通常稼働出来ません。

困ったのは、奏さんでした。

「え、ど、どうしたの?大丈夫?瑠璃華さん?瑠璃華さん!?」

と、奏さんは私を呼びながら、何度も私の肩を揺さぶりました。

が、私は動きませんでした。

前述の通り、自動冷却システムが作動中だからです。

しかし、傍目から見ると、私が奏さんの足元に泣き崩れているようにしか見えない状態なので。

「…うわ、見て。緋村が電波ちゃん泣かせてる…!」

「本当だ。あの電波ちゃんを泣かせるなんて…緋村の奴、何したんだろう?」

「最低…」

と、運悪く、このタイミングで登校してきたクラスメイト達が、ひそひそと言いました。

「ちょ、ちが。これはその、そうじゃなくて。る、瑠璃華さん起きて!起きてってば!俺、変な誤解されてる!」

「…現在、自動冷却システム作動中…」

「瑠璃華さんんんん!!」

と、奏さんは悲しみの叫びをあげました。

しかし、当然私の耳には届いていないのでした。