ですが、奏さんにいなくなって欲しくないというのは、完全に私一人の我儘です。

奏さんの幸せを願うなら、私はこの悲しみを克服する必要があるのです。

「どうぞ私のことは気にせず、奏さんが幸せになれる選択をしてください」

「…」

「例えどれほど悲しくても…。奏さんが何処かで幸せに暮らしているのだと思えば、私はいつか、必ず…時間がかかっても、いつかきっと、この悲しみを乗り越えられます。必ず」

と、私は言いました。

乗り越えてみせます。きっと。

時間はかかるでしょう。いつのことになるかは分かりません。

でもきっと、奏さんを送り出したことを、後悔はしないでしょう。

だから。

「私の親友になってくれて、ありがとうございました。私のアンドロイド生初の友達が奏さんで、本当に良かったです」

と、私は言いました。

自分の心に、素直に。

伝えたいことを、そのまま伝えました。

「…そっか」

と、奏さんはポツリと言いました。

「俺、ずっと一方通行だと思ってた」

と、奏さんは言いました。

…はい?

…一方通行?

私は、周囲を見渡しました。

…一方通行の道路なんて、何処にも見当たりませんよ。

「俺の気持ちはずっと一方通行で、瑠璃華さんにとっては、俺は大した存在じゃないんだって…。でも、そうじゃなかったんだ」

と、奏さんは言いました。

気持ちが一方通行って、それはどういう意味ですか。

「瑠璃華さんも、同じだけ俺のことを思ってくれてたんだ。いなくなったら寂しいって、そう思ってくれてたんだ」

「…それは…はい、そうですね」

「…ありがとう。それを知れて良かった」

と、奏さんは言って、微笑みました。

「…これで、俺も決心がついたよ」

と、奏さんは言いました。

…決心…そうですか。

覚悟されましたか。ようやく。

「…分かりました」

と、私は言いました。

私も、もう後悔はありません。

偽りなき思いを、ちゃんと伝えましたから。

例え、もう二度と奏さんに会うことが出来なくなったとしても。

それでも私は、もう後悔しません。