「…私は暇なのでしょうか?」

『うん。お隣さんの夫婦喧嘩を、二時間も前からずっと聞いてる…時点で、凄く暇だと思う』

と、奏さんは言いました。

それは、私にはない発想でした。

確かに、奏さんの言うことにも一理あります。

「成程、そうだったんですね…。さすが奏さんです。私には思いつきませんでした」

『そっか…。思いついて欲しかったよ。出来れば、二時間前に…』

と、奏さんは言いました。

申し訳ありません。

私も、まだまだですね。鍛錬が足りません。

「分かりました。訂正します。奏さん、私は今、暇です」

『うん』

と、奏さんは言いました。

そのようなことに、気づかせてもらうなんて…。私は良い友人を持ちました。

奏さんには、感謝しかありません。

『そこで、実は凄く暇だったことが発覚した瑠璃華さんに、質問があるんだけど』

「はい、何でしょうか」

『良かったら、これから出てこられない?』

と、奏さんは尋ねました。

これから、ですか?

現在の時刻は、午前10時半です。

「構いませんが、何処に行くのでしょうか」

『あ、えぇと…。実は、俺はまだ夏休みの宿題が終わってなくて』

と、奏さんは打ち明けました。

夏休みの宿題ですか。

「奏さん、まだ終わっていなかったんですね」

『うん、恥ずかしながら…。だから、瑠璃華さんと一緒に…宿題やりたいと思ったんだけど』

「それは構いませんよ」

『え、本当?良いの?』

と、奏さんは少し声を弾ませて言いました。

何か面白いものでも見えたのでしょうか。

「しかし、どうして私なのですか?」

『えっ?』

「私と宿題をやることに、奏さんにどのようなメリットがあるのですか?」

と、私は尋ねました。

同じ宿題をやるのだったら、一人でやっても、近所のおじさんが一緒でも、変わらないはずです。

何故奏さんは、敢えて私をチョイスするのでしょう。

花火大会は、友達同士で行くものだと碧衣さんも言っていましたから、花火大会に一緒に行くのは納得出来ますが。

一緒に宿題をやるという行為は、友達同士でなければいけない理由はないはずです。

『それは…だって…。夏休みは学校がないから、そういう口実でもないと、瑠璃華さんに会えないし…』

と、奏さんはボソボソと小声で言いました。

集音性能は高い私ですが、電話越しだと、どうしても聞こえにくいです。

「はい?今何と?」

『あ、いやそうじゃなくて。その、瑠璃華さんは頭が良いから、宿題、教えてもらえたらと思って』

と、奏さんは慌て気味に言いました。

成程、そのような理由があったのですね。

それなら納得です。