アンドロイド・ニューワールドⅡ

…落ち込んでいる?

私が?

「いいえ、私は落ち込んでなどいません」

と、私は言いました。

落ち込んで良いはずがありません。

だって、これは良いことなのですから。

「奏さんが、ようやく温かい家庭に引き取られ、新しい学校に転校しようとしているのです。親友の門出を、私は祝福して見送らなくては」

『…』

「これは良いことです。吉事です。ですから私は、喜んで奏さんを見送ろうと…」

『…そうだね、奏君にとっては、幸せなことなのかもしれない』

と、久露花局長は言いました。

『でも、瑠璃華ちゃんにとってはどうなの?』

と、局長は聞きました。

…私にとって?

私にとって…それは…。

「…幸せなことです。親友が幸せになろうとしているのですから、私にとっても幸せです」

と、私は言いました。

しかし。

『本当にそう?…寂しいんじゃないの?』

と、久露花局長は聞きました。

…寂しい…。

寂しい。孤独。

私は、その感情を知っています。

学びましたから。奏さんのお陰で。

『瑠璃華ちゃん、人間の感情を学ぶのは良い。でも、学んだその感情に、自分の感情に、嘘をついたら駄目だ』

と、久露花局長は言いました。

珍しく、真剣な表情でした。

とても、バレンタインの時期の久露花局長だとは思えません。

『寂しかったら、寂しいって言っても良いんだよ。行かないでって言っても良いんだよ』

と、久露花局長は言いました。

寂しい。寂しいから、行かないで。

それは…そのようなことを言うのは、とても傲慢だと思います。

「私がそのようなことを言えば、奏さんは気持ちよく旅立つことが出来ません。彼を困らせるだけです」

『そうかもね。でも、だからって自分の感情に嘘をつくの?』

「…時には必要なことなのでは?だって、奏さんは私の親友ですから。親友の為なら、自分の気持ちを我慢することも必要でしょう」

と、私は言いました。

私は、奏さんの親友なのですから。

彼が後腐れなく、ここから旅立てるように、応援してあげなくてはならないはずです。

それが、親友である私の役目…。

『…あのね、瑠璃華ちゃん』

と、久露花局長は言いました。

『折角瑠璃華ちゃんは、人間の感情を学んだ『新世界アンドロイド』なんだから…。自分の気持ちに、もっと素直になって良いんだよ』

「…」

『嬉しかったら嬉しいって。楽しかったら楽しいって。悲しいなら悲しいって。寂しいなら…寂しいって。そう言って良いんだよ』

「…」

『そう思うことは、悪いことじゃないんだ。感情は、自分では選べない。自然と湧き上がってくるものなんだから。だから君は…もっと素直になって良いんだよ』

と、久露花局長は言いました。