アンドロイド・ニューワールドⅡ

『どうしたの瑠璃華ちゃん?そんなぼんやりして』

と、久露花局長は心配そうに聞きました。

…ちょっと驚きました。

何故か、目を覚ましてみると、久露花局長がまともなことを言っています。

この時期は、バレンタインのことしか喋らないのかと思っていましたが。

まともになろうと思えば、一応なれるのですね。

それは初めて知りました。

で、それはともかく…私に何かあったのか、でしたね。

「何もありません」

と、私は答えました。

別に強がっている訳ではありません。

何かあったのは、私ではありません。奏さんです。

『え、いや、でも…じゃあ何でスリープモードに入るの?何か、身体に不調があるの?』

と、久露花局長は尋ねました。

身体に不調…ですか。身体に不調はありません。

でも、身体ではない部分に、不調はあります。

「何もありません」

『じゃあ、何で…。今まで一度も…。…もしかして、奏君と何かあったの?』

と、久露花局長は聞きました。

さすが局長。鋭いですね。

常にチョコレートのことしか考えていないように見えますが、こういうときは鋭い方です。

「…はい。あと一学期の付き合いになりましたので、悔いなく過ごそうと思っています」

と、私は言いました。

口にしてみて、実感しました。

あと一学期の付き合い。そうなのですね。

しかし、これは仕方のないことです。

『一学期って…あ、そうかクラス替えだね?学年が変わったら、クラス替えがあるから…』

と、久露花局長は言いました。

何やら、誤解していらっしゃるようですね。

『でも、大丈夫だよ。そんなに落ち込まなくても。クラスが替わったって、同じ学校にいることには変わりないんだから、また一緒に…』
 
「違います。学校が変わるのです。奏さんは転校されるのです」

『えぇぇ!?』

と、久露花局長は愕然として、二の句が継げずにいました。

私はそこに、畳み掛けるように言いました。

「奏さんは、親切な叔母夫婦の家庭に引き取られ、引っ越して、転校して、星屑学園からいなくなるそうです」

『そ…そんな…』

「ですから、あと一学期の付き合いなのです」

と、私は言いました。

クラス替え、どころの騒ぎではありません。

クラス替えくらいで、私はスリープモードに入ったりしません。

『そんな…どうして、そんないきなり…』

「長らく海外にいた叔母夫婦が、この度数年ぶりに帰国されたそうです」

『だ、だからって…また急展開だな…』

と、久露花局長は言いました。

そういうものです。

人生、いつ何時、何が起こるかは分からないものです。

それはアンドロイドでも同じこと。

運命が、何かしらの予告をして来てくれるなら、どれほど有り難いか。

『…成程、瑠璃華ちゃんがそんなに…落ち込んでる理由が分かった』

と、久露花局長は言いました。