その場で、しばらく待っていると。

やがて、打ち上げ開始前のカウントダウンが始まりました。

人間は何故、何か一大イベントを始める前に、わざわざカウントをするのか。

永遠の謎ですね。

そして。

パンッ!!とから鋭い音が鳴って、夜空に爆発物が炸裂しました。

「上がりましたね」

「上がったね」

と、私と奏さんは言いました。

これが、夏の風物詩、世に言う花火なのですね。

やはり爆発物ですね。危険です。

しかし、物騒な爆発物にしては、不謹慎なほどに綺麗です。

一発打ち上がったのを皮切りに、次々にドン、ドンと花火が炸裂していきます。

まるで空襲のような音です。

一発目以降は、もうカウントダウンはしないんですね。

えぇと、確か花火を打ち上げるときは、何か掛け声があったはずです。

思い出しました。

「かぎや〜!」

「…たまやが先じゃないの?」

「え?」

「いや、良いけど…」

と、奏さんは戸惑ったように言いました。

私は、何か間違ったことを言ったでしょうか。

「それより…綺麗だね、瑠璃華さん。花火…」

と、奏さんは夜空を見上げながら言いました。

「そうですね。空に爆発物を打ち上げて楽しむなんて、人間の野蛮さ、残虐性を感じずにはいられませんでしたが…」

「…そんなこと感じてたの…?」

「こうして実物を見ると、華やかで綺麗ですね」

と、私は素直に認めました。

この美しさを見たくて、わざわざ爆発物を大量に作っては、大量に打ち上げているんですね。

「実物…。瑠璃華さん、花火見るの初めてなんだ」

「はい。奏さんは見たことがあるんですか?」

「あるよ。昔…まだ、家族が生きてた頃、一緒に見に来たことがあるんだ」

と、奏さんは言いました。

成程。奏さんのご家族は、事故で亡くなられたんですよね。

そして奏さんが両足を失ったのも、その事故がきっかけだったと、以前説明してくださいました。

「あれ以来、もう花火なんて…見に行く機会もないし、一緒に行く人もいないしで…。ずっと遠ざかってたけど。今年は瑠璃華さんがいたから…」

「…」

「…一緒に来て良かった。誘って良かった。今日来なかったら、もう一生、花火を見る機会なんてなかったかもしれない」

「…そうですか」

と、私は答えました。

それは、良かったですね。

「…もし良かったら、瑠璃華さん。来年も、一緒に来てくれる?」

と、奏さんは尋ねました。

「はい、勿論です。今度来るときは、穴場スポットを探してきます」

「そっか…。そうだね。俺も…そうだ、射的の練習しておくよ」

「分かりました。では来年は、二人で射的屋の景品を、根こそぎ掻っ攫っていくとしましょう」

「あはは…そうだった。このテディベア、どうしよう…」

と、二人で会話をしながら。

私達は、夏の夜空を彩る花火を、いつまでも眺めていたのでした。