アンドロイド・ニューワールドⅡ

「こんにちは、碧衣さん」

「えぇ、どうもこんにちは」

と、碧衣さんは答えました。

碧衣さんもクリスマス仕様に着替えを、と…言う必要はありませんでした。

何故なら。

「どうでしょう。今日の為に、衣装を用意してきました。似合いますか?」

と、碧衣さんは聞きました。

本日の碧衣さんは、洒落た黒いスーツを着ていました。

ネクタイは赤です。

「とても似合っていますが、それは何の衣装ですか?」

「クリスマスのホストをイメージしてみました。ブラックサンタってのもいるそうですし。格好良いかなと思いまして」

と、碧衣さんは言いました。

成程、碧衣さんなりにクリスマスをイメージしてみたのですね。

よく似合っています。

「嘘でしょ…めちゃめちゃ格好良いじゃん…。俺のトナカイって一体…」

と、奏さんはまた、ぶつぶつ呟いています。

はっきり喋ってくれて良いんですよ。

「碧衣先輩にも衣装を用意していたのですが、既に着用されているのなら、必要ありませんでしたね」

と、琥珀さんは言いました。

「…」

と、碧衣さんは無言で、琥珀さんを見つめていました。

「…」

と、琥珀さんも琥珀さんで、そんな碧衣さんを無言で見つめていました。

…謎の、無言の駆け引きが発生しています。

そういえばこの二人、以前会ったときは、一触即発の喧嘩寸前状態に陥ったのですよね。

あれ以来、一度も会っていないどころか、連絡も取っていないことと推測します。

つまり、人間で言うところの、とても気まずい雰囲気という奴ですね。

大丈夫でしょうか。

私は、何か声をかけた方が良いのでしょうか。

また何か起きそうになったら、再び私が止めに入るつもりです。

すると。

「…?どうかしたの?二人共」

と、何も知らない奏さんが聞きました。

この中で唯一の人間であり、そして唯一、この二人の事情を知らない奏さんだからこそ。

純粋に、この二人に声をかけることが出来ます。

再び一触即発か、と思われたところ。

「…いえ、何もないですよ。珍しい格好してるなぁって、ちょっと見とれてただけです」

と、碧衣さんは事も無げに言いました。

なんと。

碧衣さんの方から折れましたね。

そして。

「はい。私も、碧衣先輩の初めて見る格好に、見とれていました」

と、琥珀さんも言いました。

「クリスマスのサンタコスチュームですか。似合いますね琥珀さん」

「ありがとうございます。碧衣先輩も、よく似合っていると思います」

と、碧衣さんと琥珀さんは言いました。

ご覧になりましたか。

警告が必要なほど、互いに対立し合っていたあのお二人が。

何事もなかったかのように、普通に接しています。

喧嘩が起こらなくて良かった、どころではありませんね。

むしろ仲良くなさっているのを見て、私は驚きました。

うわべだけの、お世辞なのかもしれませんが。

それでも、衝突していないだけ、素晴らしいことだと思います。

これは、後で久露花局長にも報告ですね。