チョコムースの香りに包まれながら、空き教室でひたすら作業をしていると。

隣の、お店の方から。

「こんにちはー。お邪魔します」

と、聞き覚えのある声が聞こえてきました。

あれは碧衣さんですね。

足音からして、碧衣さんの隣に誰かいます。

十中八九、紺奈局長でしょうね。

「い、いらっしゃいませ…」

と、ホール係のクラスメイトは、戸惑いながら接客していました。

何故でしょう。

すると、案の定紺奈局長の声も聞こえてきました。

「せ、1110番。人目につくから、腕を組むのをやめろ」

と、紺奈局長は言いました。

成程、腕を組んでいるのですね。

相変わらず、仲良しなことです。

お二人の絆は羨ましいですね。

私も、もっと奏さんと仲良くなったら、腕を組んで歩けるでしょうか?

奏さんは車椅子なので、腕を組んで歩くには、私が抱えなければなりませんが。

それは問題ありません。私の積載量は、通常時でも300キロはありますから。

奏さん一人くらい、小さな米袋を担ぐようなものです。

何の問題もありませんね。

「え?照れてるんですか?も〜可愛いんですから〜」

「…照れてない…」

「じゃ、二人で座りましょうか〜。うふふ」

と、碧衣さんは嬉しそうに言いました。

「お冷やと、メニューをどうぞ」

「恋人限定、ハートのストロー付きドリンクとかないんですか?」

「…ないです…」

と、ホール係のクラスメイトは答えました。

そんなメニューはありませんでしたね。

もしあったら、面白かったかもしれません。

「なーんだ、つまんない」

「1110番。そんなメニューがあったとして、自分は頼まない」

「じゃあ…そうだなー。いちごソースのパンケーキ、2倍で」

と、碧衣さんは注文しました。

「え?二人前ではなく、2倍ですか?」

「はい。一皿にまとめてください。フォークとナイフも一人分で良いですよ」

「は、はぁ…。じゃあ取皿お付けしましょっか?」

「要らないです。二人で一つのパンケーキを、イチャイチャ食べる予定なんで!」

「…」

「…」

と、紺奈局長も、クラスメイトも無言でした。

見えませんが、恐らく紺奈局長は天を仰いでいることと思います。

「そ、そうですか…。の…飲み物はどうしましょう…?」

「ハートストローがないなら、何でも良いですね。僕は紅茶…アッサムで。紺奈局長はどうします?」

「…自分はコーヒー、」

「局長はココアに、マシュマロ付きでお願いします」

「…自分の意見を聞いてくれ」

と、紺奈局長はぼそっと呟いていました。

「か、畏まりました…。アッサムティーと…マシュマロ付きココアですね」

と、ホール係のクラスメイトは言いました。

紺奈局長のご意見は、尽く華麗に無視されているようですね。

お気の毒です。

「それじゃ、少々お待ち下さい…」

「はーい。イチャイチャしながら待ってまーす」

と、碧衣さんは軽い口調で言いました。