アパートに帰ってきたと思ったら、何故かそこに、碧衣さんがいます。

部屋には鍵がかかっていたはずなのですが…。

しかし、アンドロイドである私や碧衣さんには、鍵の有無など関係ありませんね。

簡単に入ることが可能です。

それよりも。

「何かあったのですか?」

「えぇ、あったんです!僕の素敵な恋路が、また一歩進んだ記念を、一緒に祝いたいと思いまして」

と、碧衣さんは言いました。

何があったのかは全く分かりませんが、彼の言う恋路、という言葉から察するに。

きっと、紺奈局長絡みで、何か良いことがあったのでしょうね。

そうでなければ、碧衣さんがここまで満面の笑みになることはありません。

アンドロイドでありながら、ここまで表情豊かになれるのは、素直に羨ましいことですね。

「そこで、お祝いに僕、ドーナツ買ってきたんですよ。どうですか、一緒に」

「結構です」

「まぁまぁそう言わず。チェーン店とはいえ、ミセスドーナツのドーナツはなかなか美味しいですよ」

と、碧衣さんは箱に入ったドーナツを勧めてきました。

…ドーナツ夫人…?

何だか、身体に穴の空いていそうなご婦人ですね。

大丈夫でしょうか。

「もぐもぐ。うん、美味しい。さぁ瑠璃華さんもどうぞ」

「分かりました」

と、私は答えました。

碧衣さんがそこまで仰るなら、私も頂いてみましょう。

もぐもぐ。

うん、美味しいですね。

久露花局長が好きそうです。

「ところで、このドーナツは。もぐもぐ」

「はい、何ですか。もぐもぐ」

「お祝いって、何のお祝いなんですか?ごくん」

「あぁはい、僕紺奈局長に、プレゼントもらったんです。ごくん」

と、碧衣さんはドーナツを飲み込みながら言いました。

成程。紺奈局長からプレゼントですか。

碧衣さんが喜ぶ訳ですね。

「何をもらったのか、聞いても良いでしょうか」

「よくぞ聞いてくれました!これです」

と、碧衣さんは、青いスマートフォンを取り出しました。