と、いう訳で。

私は持参した料理を、奏さんに食べてもらうことにしました。

「どうでしょう、奏さん」

「うん…。…ずず。普通に…。…ずず。美味しいけど…」

「…けど?」

「何でお茶漬け…。あっ、いや何でもない」

「?」

と、私は首を傾げました。

何か疑問があったのでしょうか。何でも聞いてくださっても大丈夫ですよ。

「やはり『人間交流プログラム』を遂行する『新世界アンドロイド』たる者、料理の一つくらいは、作れた方が良いと思いまして」

と、私は言いました。

いくら我々アンドロイドに、食事の必要がないとはいえ。

人間の生活に溶け込むに当たって、食事に関する情報を得るのは有益です。

ご近所の夫婦も、夕食がおでんであったということで、一時間は揉めていましたし。

やはり、食べ物に関することは、人間にとって重要事項なのでしょう。

今回は、それを学習することが出来ました。

そして何より。

「奏さんに食べてもらえて、良かったです」

「あ、そ、そう?」

「えぇ。やはり、奏さんは私の一番の友人ですから」

と、私は言いました。

局長と副局長も、私にとっては非常に重要な人物ですが。

奏さんは、『人間交流プログラム』を通して初めて出会った、私の友人。

言うなれば、特別な方ですから。

私の初めての手料理を、奏さんにも味わって欲しかったのです。

だから、ここまで持ってきました。

白米をタッパーに入れ、出汁入りのお茶を魔法瓶に入れて持ってきた甲斐がありました。

もう少し贅沢を言うなら、お茶碗を持ってくるべきでしたね。

いえ、お茶碗に入れようかとも思ったのですが、お茶碗には保温機能がなかったもので。

「そうか…。友人…まぁ…友人か…」

と、奏さんは何度も呟きました。

「?友人でしょう?」

と、私は確認しました。

いや友人じゃないよ、と言われたら、私のこれまでの『人間交流プログラム』の成果が、一挙になかったことになってしまいます。

「あ、うん。友人なんだけど…」

と、奏さんは言いました。

…けど?

「…友人以上になれたら、もっと幸せ…。いや、まぁ友人になれたんだから、良いか」

と、奏さんは言いました。

友人以上?

それはつまり、親友のことですね。

私と奏さんは、既に親友の域に達していると言っても過言ではありません。

「それに…お茶漬けとはいえ、図らずも瑠璃華さんの手料理、食べさせてもらったから、俺は嬉しいよ」

と、奏さんは言いました。

笑顔で、です。

親友を笑顔にさせることが出来ました。素晴らしい成果ですね。

「それは良かったです」

「でも、もし…次、次の機会が、もしあるとしたら」

「…あるとしたら?」

「今度は…お茶漬け以外のものが良いかな…。贅沢だけど…」

と、奏さんは遠い目で呟きました。

そうですか。

では次の機会があるとしたら、今度は別のものを作るとしましょう。

…何が良いですかね。

今回は、梅茶漬けだったので。

今度は、鮭茶漬けなんか、良いかもしれません。