私は、この感情が何であるか知っています。

学習しましたから。

これは、怒りです。

自分にとって大切な人物を侮辱された、怒りです。

碧衣さんが紺奈局長を侮辱されたときも、こんな感情を抱いているのでしょうか。

さすがに、相手を破壊しようとまでは思いませんが。

しかし、それに似た怒りを覚えます。

「奏さんは足を引っ張ってなどいません。撤回してください」

と、私は言いました。

「な…何するのよ、いきなり…!」

「それはこちらの台詞です。あなたに、奏さんを侮辱する権利なんてありません」

と、私は言いました。

あなたどころか、他の誰にもありません。

奏さんは、何も悪いことなどしていないのですから。

「上手く行かないから、時間が足りないからと言って、奏さんのせいにしないでください」

と、私は言いました。

奏さんは、都合の良いサンドバッグではありません。

「な、何よ…!部外者の癖に、偉そうに…」

と、ポタージュ担当の女子生徒は言いました。

私の何が部外者なのか、その意味は不明ですが。

もしかして、私が転入生だからでしょうか?

いえ、そんなことはどうでも良いですね。

「私は奏さんの関係者です。親友ですから。勝手に部外者にしないでください」

「何言ってんのよ、中二病拗らせただけの奴が…!」

と、私とこの女子生徒の間で、口論が勃発しそうになったそのとき。

「あのー…。大丈夫?」

と、様子を見てやって来た、家庭科教師が声をかけてきました。

見ていたのですか。

「あの、喧嘩はしないでね?制限時間…少しくらい越えても構わないから。ゆっくり作って。ね?」

と、家庭科教師はおずおずと言いました。

教師なのに、腰が低いですね。

余程の平和主義者だと思われます。

しかしそのお陰で、私も少し怒りが落ち着きました。

人間で言うところの、頭が冷えた、という奴ですね。

「分かりました。では、あとは私が」

と、私は言いました。

そして、じゃがいもを潰すマッシャーを手に取りました。

「え、あの…瑠璃華さん」

と、奏さんは何かを言おうとしましたが。

「ご心配なく、奏さん。あなたの名誉は、私が守ります」

と、私は言いました。

奏さんの為、と言うよりは…これは、私の為ですね。