家庭科室に移動し、エプロンをつけ、レシピと材料をテーブルに並べ。
 
いざ、実習が始まりました。

今日の為に、私は万全の準備をしてきました。

今日の私に、恐ろしいものはありません。無敵です。

私が作るのは、と言うか、私と湯野さんが作るのは、デザートのロールケーキです。

残りの3品は、グループメンバーに任せます。

「では作りましょうか。まずは型にクッキングシートを敷いて…。次に材料を計量します」

と、私は戸棚から、型と計量器具を取り出しました。

砂糖がおよそ200グラム、薄力粉は150グラム…。それから卵を二つ用意して。

下準備として、無塩バターをカットして、これを湯煎で溶かします。

かつ、薄力粉を二回振るって、用意しておかなくてはなりません。

まだ下準備の段階だというのに、早速面倒な手順が待ち受けていましたね。

ですが、こちらは二人います。

一人で、全てをこなす必要はないのです。

二人で分担しましょう。

「湯野さん、薄力粉を振るっておいてもらえますか。私はバターを湯煎します」

と、私は言いました。

知っていますか。湯煎というのは、お湯を流し入れて溶かすことではなく。

お湯の熱を利用して、間接的に食材に熱を入れることなのだそうです。

難しいですね。

すると。

「えぇ、何それ面倒臭い…。そんなの電波ちゃんがやってよ」

と、湯野さんは言いました。

早くも、連携が取れなくなっています。

「ではそちらは私がやるので、湯野さんが湯煎を担当してもらえますか」

「そんなの、もっと面倒臭いじゃん…。いちいちレシピ通りにやらなくても良くない?」

と、湯野さんは言いました。

まさか、小麦粉を振るう手間すら惜しむとは。

それなら、ますますホットケーキミックスで作るレシピの方が良かったのではないかと、今更になって思いますが。

今、そんなことを言っても、後の祭りというものです。

「それより私、果物の用意したい。先にやっても良いでしょ?果物切るの」

と、湯野さんは勝手に包丁を持ち出して、果物のカット作業に入りました。

生地を作る前から、トッピングの用意をするのですか?

まぁ、どうせ後でやらなければならないことなのですから、今やっても後でやっても、手間は変わりませんが…。

「…」

と、私はしばし無言で、楽しげに果物をカットする湯野さんを眺めた後。

生地を作る作業に、戻ることにしました。

ボーッとしていても、生地は出来ませんからね。

私が、湯煎しながら、薄力粉を振るうことにしましょう。