アンドロイド・ニューワールドⅡ

何かを提案すると、必ず、何かしらの反対意見を受けているような気がします。

とはいえ、グループ内のメンバーからの意見は、リーダーとして、きちんと聞かなくてはなりません。

どんな意見でも、意見してくれるだけ有り難いと思いましょう。

生物の課題のときは、反対意見さえありませんでしたから。

反対意見が出るということは、それだけ意欲を持って課題に取り組んでいるということでしょう。

何でも前向きに考えるのが、人生を悲観せずに生きられる一番の方法です。

私は人ではなく、アンドロイドですが。

「根拠をお聞かせください」

「だって、私のレシピの方が豪華だし、お洒落じゃん」

と、湯野さんは事も無げに言いました。

確かに、手間がかかっているだけあって、そのレシピの写真を見たところ、完成形のロールケーキの出来だけ見れば、湯野さんの方が見栄えが良いですね。

シンプルな私のロールケーキに比べて、豪華で美味しそうでもあります。

久露花局長も、多分こちらの方が喜ぶでしょうね。

しかし、実際これを作るとなると、慎重になった方が良いと思います。

「湯野さんは、こちらのレシピでロールケーキを作ったことがあるのですか?」

と、私は尋ねました。

もし彼女が経験者であるなら、多少難しいレシピでも、任せても良いと思いますが…。

「いや、作ったことないけど」

と、湯野さんは答えました。

作ったことがないということは、このレシピにおいては、私達は二人共、ロールケーキ初心者ということになりますね。

「でしたら、こちらの方が豪華で見栄えが良いという、その意見には同意しますが、しかし作る手間を考えると、少しでも簡単な方が良いのではないでしょうか」

と、私は言いました。

しかし。

「別に、このくらいイケるでしょ?」

と、湯野さんは胡散臭そうに言いました。

私の慎重論を、馬鹿にしているような口調です。

何でしょう。やったことはないけど、きっと出来るだろうという、謎の自信を感じます。

その自信、根拠は何処から来ているのか聞きたくなりますね。

私のように、料理経験者ならまだしも。

湯野さんは、ロールケーキを含め、料理の経験はあるのでしょうか?

「ですが、私の用意したレシピは、かの有名な、『猿でも分かる!』シリーズのレシピですから、きっと猿でも出来る簡単なレシピだと思うのです」

「え、何それ…?聞いたことないんだけど…」

と、湯野さんは引き気味に言いました。

なんと。湯野さんは、『猿でも分かる!』シリーズを知らないのですか。

それは、人生を3割は損していますね。

知識を得るには、このシリーズほど適した本はありません。

そうだというのに。

「そんな訳分かんない本のレシピなんて、絶対ろくなものじゃないわ」

と、湯野さんは一刀両断しました。

…何ということでしょう。

まさか、『猿でも分かる!』シリーズを、訳分からない本扱いする方が、この世に存在するとは。

「使ったレシピは、後で先生に提出させられるって言ってたし。手抜きするより、ちゃんと作った方が良いでしょ」

と、湯野さんは続けて言いました。

そんなに、自分のレシピを推しますか…。

…仕方ありません。

私一人なら、絶対に『猿でも分かる!初心者のお菓子作り』のレシピを選んだでしょうが…。

湯野さんがこれほど、自分の探してきたレシピを勧めることですし。

それはきっと、初めてでも上手く作れる自信があるということなのでしょうし。

では、ここは湯野さんに譲歩して、彼女の持ってきたレシピを採用しましょう。

湯野さんは散々馬鹿にしますが、私は『猿でも分かる!』シリーズを信じていますよ。