花嫁がヴァージンロードを親とともに歩く文化はこの国にも確かに存在するが、国王は基本的に娘をエスコートしないものらしい。

王は最前列で泰然(たいぜん)と構えて見守るものだと誰かが教えてくれた気がするが、なにがなんでも一緒に歩くのだと言って聞かなかった父は、恐縮して首を垂れる招待客を見て満足そうだ。

「みんな(うつむ)いているから少しくらいへまをしても気がつかないよ」

そういう問題ではない気がするが、これは父なりの気遣いだろう。

ソフィアは拝堂内を埋めつくす参列者を見渡してから、微笑とも苦笑ともつかない笑みを浮かべる。

(王妃とキーラとヒューゴは当然来ていないわね。……ランドールの両親が来ていなのは残念だけど……ま、そうよね。だってわたし、悪役令嬢だもの)

王妃は、国王が浮気心を起こして誕生したソフィアを毛嫌いしているし、彼女の子である王女キーラ・グラストーナも、王子ヒューゴ・グラストーナもソフィアのことを"汚らしい庶民"だと言って(ばか)らない。

当然、ソフィアの結婚を祝福するはずもなく、結婚式は欠席だ。

ランドールの両親も、ランドールが()(とく)を継いでからは領地で静かに暮らしているそうで、結婚式のためにわざわざ王都に来てはくれなかった。

父王によると、都合がつかないと言っていたが祝福していたよ、とのことであるけれど――本当のところはよくわからない。

なぜならソフィアは悪役令嬢――乙女ゲーム『グラストーナの雪』でヒロインをいじめる性格の悪い女、という設定なのだから。