不遇な転生王女は難攻不落なカタブツ公爵様の花嫁になりました

緊張して楽にできるはずない――そう思ったけれど、母が他界してからずっとまともに眠れていなかったからか、湯の温かさと、髪を洗ってもらう気持ちよさに、だんだんと(まぶた)が重たくなっていく。

こくりこくりとソフィアが舟をこいでいる間にメイドふたりは彼女の髪と体を洗い終えて、ソフィアの体をバスタブからひょいと抱え上げた。

その拍子に目を覚ましたソフィアだったが、貧乏生活で食べるものも少なかったソフィアの体は平均的な十四歳女子よりも大分軽く、簡単にバスルームの外へ運び出されてしまう。

「もうじきドレスが届きますから、それまでバスローブで我慢していてくださいね」

メイドは申し訳なさそうに言うが、ソフィアがさっきまで着ていた服よりもバスローブの方が何倍も上等だった。

逆にソフィアの方が、こんなにふかふかと気持ちのいいバスローブを着せてもらっていいのだろうかと不安になる。

「髪を乾かしましょうね」と言われて、メイドがタオルで髪の雫を拭ってくれるけれど、そのタオルも信じられないくらいにふかふかで、ソフィアはだんだん現実と夢の区別がつかなくなってきた。

これは夢ではなかろうか。

母が死んで絶望しすぎたせいで、意味不明な夢を見ているに違いない。

夢なら放っておけばそのうち覚めるだろうかとぼんやりしていると、メイドが言った通り、一着のドレスが部屋に届けられた。

ソフィアの瞳と同じエメラルド色のドレスだった。

(すごい、あれ一着でわたしとお母さん、何年も暮らせるんじゃないかな?)