不遇な転生王女は難攻不落なカタブツ公爵様の花嫁になりました

(……喉が渇いたのかな?)

ソフィアがおかわりが必要かと訊ねると、ランドールは首を横に振ってソフィアに向かって片手を差し出した。

「行くぞ」

ソフィアは一瞬だけためらって、ランドールの手のひらに自分の手を重ねた。



人生初の黒塗りの豪華な馬車にも驚いたけれど、ランドールに連れてこられた邸を見たソフィアは、思わずあんぐりと大きく口を開けて放心した。

信じられないほど大きなお(やしき)だ。

広い庭には噴水まであって、庭の中まで馬車で乗り入れると、馬車はソフィアの暮らしていたフラットの部屋がすっぽり入るほど大きな玄関前で止まる。

ソフィアはごくんと唾を飲み込んだ。

「こ、ここにお父さんが……?」

「いや、ここは俺の家だ」

「へ!?」

声を裏返して凍りついたソフィアをよそに馬車を降りたランドールが、すっと手を差し出してくる。

「まずは着替えをしなくては、その姿ではさすがに城の門をくぐれないからな」

「……しろ?」

「ヨハネス、メイドをふたりほど呼んでくれ。風呂と着替えを。俺は一度城へ戻る」

「風呂? 着替え?」

ソフィアがぽかんとしている間に、強引にソフィアを馬車から引きずり下ろしたランドールは、優しそうな老紳士にソフィアを渡すと、再び馬車に乗り込んでどこかへ出かけてしまった。

なにがなんだかわからないまま戸惑っていると、ヨハネスという名前らしい紳士が、優しく微笑んでソフィアの手を取った。

「私はヴォルティオ公爵家の執事をしております、ヨハネスと申します。どうぞこちらへ」

「……こうしゃくけ?」