不遇な転生王女は難攻不落なカタブツ公爵様の花嫁になりました

ソフィアがなにも言えず俯くと、ランドールが息を吐いた。

「父親に会いたくはないのか?」

その一言に、ソフィアははじかれたように顔を上げた。

父親。

ソフィアの十四年の人生で、その存在が登場したことは一度もない。

ソフィアは父のいない子供だった。幼いころに父親の存在を母に訊ねたことはあるけれど、母は困ったように笑ってごまかすだけで、どこの誰とは教えてくれなかった。

ただ一度だけ。あれは母が息を引き取る直前だった。

『あなたのことは、きっとあなたのお父様が助けてくれるわ』とささやくように告げられたのを覚えている。

けれどもそれだけで、どこの誰とは最後までわからなかった。

「お父さん……?」

「本人を前にしたらお父様、もしくは父上とお呼びするように。とにかく、会いたければ支度をしてくれ」

「……おとうさま? ちちうえ?」

なんだそれ。どこかのお金持ちのお嬢様みたいだ。

ソフィアは笑いそうになって、だが失敗した。

母の死に目にも来なかった父が、いったいなんの用なのだろう。

そう思うと、絶対に会ってやるものかと意固地になる自分がいた。

けれども母は、ソフィアの父親のことを一度も悪く言ったことはなくて、むしろ死に際には頼るようなことを言っていたと、ソフィアは思い直す。

一度も会いに来てはくれなかったけれど、悪い人ではないのかもしれない。

ソフィアは大きく息を吸い込むと、すべての感情を体の外に吐き出すかのように長く息を吐いた。

(荷物……)

予感だが、このまま彼についていけば二度とここへは戻ってこられない気がした。