不遇な転生王女は難攻不落なカタブツ公爵様の花嫁になりました

ランドールはソフィアの出した水には口をつけず、黙ってじっとソフィアを見つめた。

「……なるほど、似ていないこともない、か」

そして小さく独言(ひとりご)ちると、おもむろに立ち上がる。

「陛下からお前を連れてくるようにと言われている。ついてこい」

「……へいか?」

ソフィアはまず、陛下って誰だろうと思った。陛下=国王とつながらないほどに、泣き暮らしたソフィアの思考は悲しみで麻痺(まひ)していた。

ランドールは眉を寄せ、「その前にまず身なりか」とつぶやいた。

「先に我が家に寄る。ある程度の事情もそこで話そう。いいからついてこい」

「……でも、ここにはお母さんと」

母の遺体は埋葬(まいそう)したが、母と暮らした思い出のある部屋だ。

ソフィアが力なく首を横に振ると、ランドールは片眉を跳ね上げて口を開きかけたが、思い直したように口を閉ざし、ソフィアの両肩にそっと手を置いた。

「持っていきたいものがあったらまとめるといい。どのみち、十四歳のお前がどうやってひとりで暮らすんだ。まともに金を稼ぐことすらできないだろう」

ソフィアはきゅっと唇を引き結んだ。

ランドールの言う通り、ソフィアができることといえば、近くで食事処を営んでいる知り合いのところで皿洗いをさせてもらうくらいだ。フラットの家賃を払うだけの賃金は得られないだろう。母との生活もその日暮らしだったため、蓄えはない。ここに住み続けることは困難だった。

しかし、だからといって、一瞬で思考を切り替えるには、このフラットは思い出が多すぎた。